basara

□藤色茶会
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「美味しいお菓子が食べたい」

私の何て事無い独り言で、急遽茶会を開くことになった。


色茶会


「へぇ、三成ってお茶たてるの上手いんだ」
「三成君は幼少の頃、秀吉に茶を振る舞った事があったんだ」
「へえぇ…」


普段乱暴な彼がたてた茶は思いの外、否、想像を遥かに上回る程美味しかった。

そして半兵衛が用意したお茶菓子も、とても甘くて上品な味がして。
普段食べ慣れない味に、何と表現すれば良いのか言葉が見付からないが、舌がとろける程に美味しい。


「美味しい…」

頬が緩みっぱなしの私の髪を半兵衛がそっと掬い上げた。

「当然だよ。ななしの為に用意したんだ」

彼はふっと満足気に笑い、さらりと髪を撫でる。
赤面していく顔を誤魔化す為、お茶を一気に飲み干した。



「貸せ」

ついと横から手が伸びてきた。
何のことだと反応に困れば、ぐいと茶器を奪われてしまった。



「……」

茶筅を取り出す三成。
どうやら新しくお茶をたててくれるらしい。

本当に気が利く…けれど何処か不器用な人だなあ。


しかし彼の茶をたてる姿は、とても美しい。
すらりと伸びた背筋、手元を見据える涼しげな目元。茶筅を扱う白くしなやかな手指、キレのある動き。

思わずゾクリとしてしまうその光景に見入っていると、目の前にずいと茶器を差し出された。


「何をしている」
「え?…あっ」

どうやら終わったらしい。
目で早く取れと訴えられた。

慌てて受け取り礼を言えば、フンと鼻を鳴らされた。


新しいお茶の味は変わらず繊細で、やっぱり憎めないなあ、と甘味に支配された頭の隅で思った。



三成の茶に舌鼓を打っていると、不意に視線を感じた。
隣を見遣れば、半兵衛がこちらを見ていた。
優しく凜とした彼の目を見返せば、彼は目を細め口元に笑みを浮かべた後、すっと三成へ視線を移した。

「あぁ、そうだ三成君。先日良い茶器を貰ったんだ。持って来てくれるかい」
「はい」

言われるや否や。三成はすっと立ち上がると「失礼します」、と茶室から出て行った。
半兵衛に対してはまるで犬の様に従順だとつくづく感心する。



「菓子。残り1つになってしまったね」

少し残念そうに、けれど何処か興味なさ気に半兵衛がぽそり言った。
すると彼はそれをぱくりと口に入れてしまった。

「あっ…」


少ししゅんとなる私の背に、するりと彼の腕が回る。
途端、口にふにっと柔らかい感触と、広がる甘い上品な味。
互いの中で混ざり合う。

舌のとろけるそれに酔っていると、厭らしい音を立てて彼が唇を離した。
少しでも近付けばまた触れてしまう距離で、甘く囁かれる。


「三成君には内緒だよ。いいね?」



返事をしようとした私の口は、また厭らしい音と共に塞がれた。





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