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□孤独に震える長い夜は
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ピチャッ……ピチャッ………


水滴が落ちる音に、閉じていた瞳をゆっくり開ける。
そこにあるのは、冷たい真っ暗な闇。


「また……ここだってばよ………」


変な浮遊感に吐き気がするが、とにかくここから出なければ、一歩ずつ足を進める。
ここ数日同じような夢を見ていた。
上も下も分からない真っ暗な場所に自分がいる夢。


ぼんやり歩いていると、どこからか子供の泣く声が聞こえて来た。
そっちの方向に走って行くと、良く知っている子供が蹲って泣いていた。


金髪の小さな子供。
幼い頃の自分だ。


誰からも愛されず、誰からも自分という存在を認められず、忌み嫌われていたあの頃。
大人達が自分を避ける理由は、腹の中に化け狐がいるかららしいが、あの時の自分はよく理解出来なかった。


何よりも一番怖かったのは、毎日やってくる夜。


怖いからといって抱きしめてくれる両親も自分にはいない。


いつも膝を抱えて、ベッドの上でジッとして、早く朝になってほしいと願った。
気付いたら朝になっていて太陽が登るのを見て、いつもホッとしていた。



昔の自分の記憶に唇をぎゅっと噛み締める。


「おい……泣いてたってどうにもならないってばよ…」


昔、自分自身に何度も言い続けたように、幼い自分に声をかける。
そっと肩に手を掛けようとすると、ピシャと撥ねかえされた。
そして自分を見つめる瞳には、悲しみと憎しみが写っていた。
以前は自分もこんな瞳で周りを見ていた事を思い出す。


「みんな嫌いだってばよ…誰も俺の事分かってくれない…」


「そんな事ないってばよ!イルカ先生もカカシ先生もみんな、俺の事認めてくれた!!」


幼い自分は、ニヤリとこの世のものとは思えない笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいて来た。


「例え…みんなに認められても俺の孤独…それは決して消えないってばよ」



幼い自分の声が耳に木霊して、くらりと意識が遠のいて行く。
ナルトは、ゆっくりと意識を手放した。










「ハァ…ハァ…ハァ…」


目を開けると自分の部屋の天井が見えた。
手の甲で額の汗を拭う。
そんなに暑くもないのに、不快な汗が流れていた。


「また……あの夢だったってばよ……」


ナルトは眉間に皺を寄せ、低く呟いた。
ここ数日の同じ夢。
夢という感覚があまりなくリアルで、起きた後にかなり疲労感を感じる夢だ。


ナルトはふぅと深く息を吐く。そして夢を思い出す。

幼い自分が夢には現れる。

昼間は大人達の視線と戦い、夜は長い孤独という時間に堪えていたあの頃。
あの時の事を思い出すと、今でも息をするのも苦しいぐらいだ。


そしていつも目覚める直前に投げられる言葉。


『例え…みんなに認められても俺の孤独…それは決して消えないってばよ』




「そんな事ねぇ…」


ナルトは耳に残ってる言葉を振り落とすように頭を勢いよく振って立ち上がる。まだ朝まで時間がある。
シャワーを浴びて、もう少し横になっていようと思った。
まだまだ夜は長いのだから…


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