名残もの

□間接的繋がり
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放課後の教室。
校内に生徒の姿も疎らなこの時間、カカロットは忘れ物を取りに再びここを訪れていた。

そして忘れ物を見つけ帰ろうとした時に横切った、一つの机の前で彼は足を止めた。


「……ここは…。」


そこはカカロットの幼なじみであるブロリーの席だった。
カカロットはそこを見下ろし、何気なく席に腰掛ける。


「……へぇー、こっからだとこんな風に見えるのか。」


いつもの自分の席から見るのとは少し違う景色の見え方は新鮮だった。今が夕刻であるというのも手伝い尚更だ。

ブロリーの席はカカロットよりも後ろにある。ここから見える自分の姿は、ブロリーにどう映っているのだろうか…。


などと考えていると、時刻を告げる鐘の音が校内に響いた。

もうこんな時間か。

慌てて席を立ったが、その拍子に机の横に提げてあったを袋を落としてしまった。


「と…、いけね。」


誰がいるわけでもないのだが、なんとなく申し訳ない気持ちになりながら袋を手に取り、袋を机の横に掛ける。

…ふと、袋の口から何かが顔を覗かせているのに気付いた。
それはリコーダーを入れるカバーだった。


(リコーダー……。)


それをくい、と引っ張り、カバーからリコーダーを取り出す。

リコーダーの光沢が夕日に煌めいた。
同じリコーダーを同じように使っているはずなのに、どうしてかまるで違うものに感じられる。扱い方が違うのだろうか。


何も考えずにリコーダーをくわえる。
適当に穴を塞いで息を吹き込めば、出てくるのはいつも通り。音楽の才能の無さを物語るけたたましい音が鳴るだけだ。

カカロットは苦笑した……瞬間、ハッとして顔を赤く染めた。


(あれ…オラ今リコーダー吹いたんか!?ブロリーの……っ…!ブロリーのリコーダーを!?)


これでは所謂間接キスではないか。

幸い周囲には茶化して回る人の一人いないが、そういう問題では全くもってない。

今更ぐるりと教室を見回し、カカロットは少しほっとした。
…確かに誰もいない。

心臓が早鐘のように鳴るのを聞きながら、急いでリコーダーをカバーに入れ戻した。


そして駆け足で教室を後にする。さながら犯罪を犯した者が現場から立ち去る時のように。





家に帰ってからも。
カカロットは今日一日このことが頭を占めてしまい、他のなにも考えることができなくなってしまうのだった。







2010/08/26 21:02

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