運命

□三年後・・・
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―――気づいてたよ・・・。



君がずっとあの時のことを忘れられずにいるってことぐらい・・・




だって・・・



僕だってそうだから・・・












三年後・・・













いつも通り、僕は定春と散歩に来ていた。


いつもの散歩コースをゆっくりと歩いて行く。


そういえばここ数年で江戸の景色はずいぶん変わった。
今までの馴染みだった店はどんどん姿を消していき、古き良き江戸は跡形もなくなっていた。


「ワンッ!」

「あ!ごめん、定春・・・
ちょっと考え事してたよ。」

定春が僕を見つめて吠えた。


いけないいけない。
僕も年だろうか、(と言ってもまだまだ若いが)考え事ばかりしている気がする。


「クンクン・・・」

「・・・?どうしたの?定春??」

定春が鼻をひくつかせてにおいを嗅いでいる。


「ワン!」

「え?!ちょっと!」



いきなり定春は僕を引っ張って走り出した。




「いきなりどうしたの?定春?」

定春はあの頃よく3人と1匹で散歩に来た川原まで僕を引っ張ってきていた。

「ここに来たかったの?」

「クゥ〜・・」


どうやらちがうみたいだ。


「・・・じゃあなんで・・・」


「ワン!」


定春が吠えるので、ふと前を見てみると、黒髪の女の子が向こう側からゆっくりと近づいてきていた。



晴れているのに薄紫色の傘をさしている綺麗な女の子だ。



その女の子は、僕らの目の前まで来て、そっと微笑んだ。





「ただいま。新八、定春・・・。」







3年前とはすっかり変わってしまって気付かなかったが、その女の子を僕は知っていた。




そう・・・忘れもしない・・・





僕の大切な仲間・・・。






「神楽ちゃんっ!」







―――僕らは3年前、この江戸で万事屋を営んでいた。
あの頃は、そりゃ仕事なんてろくにこなかったけど、毎日がすごく楽しくて・・・夢のようだった。
僕がいて、定春がいて、神楽ちゃんがいて、・・・そしてあの人がいる・・・。
それだけで、お互い幸せを感じていたんだ・・・。



あの時まで・・・。








「あれから3年もたったアルか・・・。」




神楽ちゃんが遠くの方を見て言った。



「・・・・。そうだね・・・。
もう3年か・・・。時間って過ぎるのは早いもんだね。」


あっという間っだったと言えば嘘になる。
だが、万事屋を営んでいた頃に比べれば、内容なんて薄っぺらい毎日が淡々と過ぎて行った。



「・・・神楽ちゃんはこの3年間どうしてたの?噂じゃ、今や星海坊主さんの次に腕の立つえいりあんばすたーなんだよね。」


あの事件が起きて、その後神楽ちゃんは星海坊主さんと宇宙に旅立っていった。
噂で星海坊主さんとえいりあんばすたーとして活躍を続けていると聞いていた。



「うふふ・・・そうヨ?
この3年間、私はパピーと宇宙を駆け巡っていろんなえいりあんを退治したアル。」

微笑みながら彼女はこちらに向き直る。


「へえ〜・・・やっぱりすごいなあ!」

「ニシシッ!まあナッ!
新八は何してたアルか?」

「え?!僕?僕は、姉上と一緒に父上の残した道場の復興させたんだよ。
今じゃここいらでは有名な道場になったんだから。」

そう言って少し胸をはった。


そう・・・あれから僕は姉上とともに道場を復興させることに力を注いだ。
何かに集中している方があの時のことを思い出さずに済むからっていう理由もあった。
近藤さんの助けもあって、僕らは見事道場復興させることができた。



「・・・そうアルか・・。
おめでとう新八。」


きっと3年前だったらあの毒舌で一言かましていたのだろうが、今ここにいる神楽ちゃんは眉を少しだけさげて微笑んでいる。





―――神楽ちゃんは変わった。

あの事件以来、あまりしゃべらなくなったし、あまり笑わなくなった。
笑うんだけど、それは僕らを気遣うような、悲しい笑みだった。



そして3年たった今、その姿もすっかり変わってしまっていた。

雪のような白い肌はあの頃から変わっていないが、碧い瞳はいっそう美しさを増し、顔だって随分大人っぽくなって、可愛いというよりは美しい。
そしてあのころからずいぶん女性らしく成長したプロポーションの良い体は、黒いチャイナ服を見事に着こなしている。



だが、一つ僕には気になることがある・・・


「ねえ・・・神楽ちゃん・・
なんで髪の毛黒く染めちゃったの?」



そう・・・あの美しかった桃色の髪は今真黒に染まってしまっている。
再会してからずっと気になっていたことだった。



「・・・・。」


神楽ちゃんは僕に背を向けて黙りこんでしまった。


何かまずいことでも聞いてしまったのだろうか。


「あ・・・ごめん!僕無神経だよね。
今の気にしなくていいから・・・」
「新八・・・」


急いで言い訳しようとしたら神楽ちゃんが僕の言葉を遮った。







「時空転送装置って知ってるアルか?」


そしてゆっくりこっちに振り向いた。


綺麗な碧い瞳が僕をまっすぐとらえた。



「時空・・転送・・装置・・・?」


「そうヨ。簡単に言えばタイムマシンアル。」


「た、タイムマシン?!」


突然の突飛な話に僕は思わずどもってしまった。


神楽ちゃんの表情を見る限り、冗談で言っているわけではないらしい。



「・・・えっと・・テレビとかでは見たことあるけど・・・それがどうしたの?」

「・・・・。」

また神楽ちゃんは俯いて黙りこんでしまった。


「神楽ちゃん・・・?」


「・・・。ううん。なんでもナイヨ。
今のは忘れてほしいアル。」

そう言う神楽ちゃんの顔はまたあの悲しい笑みを浮かべていた。



「ねえねえ!私お腹空いちゃったアル!
新八の家に連れていくヨロシ!」

「え?・・・あ、うん・・・。」


何か心に引っかかるものを感じながら、僕は神楽ちゃんを連れて家まで帰ることにした。
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