運命
□噂
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「・・・。本気なのか?」
目の前の少女に何度問いかけただろう・・・。
「・・・。ヅラァ。しつこいアル。
何度聞いたら気が済むネ?」
少女は長い黒髪を軽く揺らしてこちらに振り向いた。
うんざりした顔で、じと目でこちらを睨んでいる。
「・・・私もう決めたのヨ。」
彼女の方を見ると、碧い瞳が俺の目をまっすぐに見てつめていた。
奴を思い出させる、強い、信念の籠った真っ直ぐな目をして・・・
噂
彼女が俺達の前に現れたのは丁度一週間前のことだ・・・。その日は雨が降っていた・・・
「桂さん・・・やはり噂は本当だったみたいです。
幕府の連中、極秘で何度か実験を行っているようです。」
「・・・。やはりな。」
幕府の動きを観察していた攘夷志士の仲間が報告をしてきた。
『桂さん・・奴らいつの間にそんなものを・・?!』
エリザベスがプレートを掲げる。
「・・・。この数年で、幕府も江戸も急激に変わった。技術も以前とは比べものにならないくらい進歩している。当然と言えば当然なのかもしれん・・・。」
俺は畳に座りこみ、腕を組んで考え込む。
「桂さん・・余計な噂話かもしれないのですが・・・」
「?なんだ?」
「・・・赤い髪の女がその装置を探しているのだとか。」
「赤い髪の女?それがどうかしたのか?」
「・・・。その女、なんでもあの有名な星海坊主の娘にそっくりだとかいう噂です。」
「・・・・・。」
『桂さん・・・それってあの・・』
「私のことアルか?」
「?!」
突然聞き覚えのある高い声が聞こえてきた。
声の聞こえた方に振り向くと、フードを被った何者かが襖にもたれ掛かっていた。
フードを被っているので、顔はよく見えない。
「久しぶりアルなァ・・・ヅラ。」
そう言ってそやつはフードを脱いだ。
「?!
まさか・・リーダー・・なのか・・・?」
桃色の髪、碧い瞳、そして透けるような白い肌・・・
それ以外はすっかり昔とは変わってしまっていたが、間違いないだろう。
『ええ?!この女があの万事屋の?!』
「失礼アルなァ、エリー。私ヨ。神楽アル」
「やはりリーダーだったのか!
いや、しかしすっかり大人になっていたからすぐにはわからなかったぞ!」
「えへへ・・・私大人になったアル!」
リーダーは少し顔を赤らめて、照れくさそうに頭をかいた。
「まあとにかく座ってくれ。
エリザベス、お茶を入れてくれんか?」
『わかりました!』
「ヅラ、エリーありがとうアル!」
座布団を一枚敷いてやり、エリザベスの入れたお茶をリーダーに渡した。
リーダーはその座布団の上に正座して、窓から見える雨空を眺めながらお茶をすすっている。
「リーダー・・・さっきの話だが・・・」
「・・・・。どうやら噂になってるみたいアルなァ。」
ふぅとため息をついてこちらをみつめた。
「それは一体・・・」
「そういうことヨ。その噂の赤い髪の女は私のことネ。」
俺の目を見て淡々と話した。
「どこで、あの装置のことを・・・」
「宇宙の裏社会じゃ、だいぶ前から噂になっていたアル。私も旅先の星で聞いたアルよ。」
そう言うと、またリーダーは窓から見える空を見つめた。
「・・・リーダーは・・あの装置を手に入れるつもりなのか?」
「・・・・。噂のまんまアル。」
空から目を離さず答える。
『何故?!』
エリザベスがすかさずプレートをかかげた。
「・・・・・・。」
彼女は答えず、空を見つめたままだ。
彼女がなぜあの装置を手に入れたいかなんてすぐにわかる・・・・
そう・・・奴・・・
銀時のためだ・・・。
「私がなんであの装置が必要かなんてどうでもいいことアル。
ヅラ・・お前達もあの装置のこと調べてるんだロ?
だったら私に情報を流してほしいアル。」
こちらに向き直り、真剣な顔でリーダーが切り出した。
「・・・本気なのか?」
「本気じゃなかったらこんなこと言わないアル。」
「・・・リーダー一人で行くつもりなのか?」
「私の問題アル。他の奴には関係ないことネ。」
「・・・・。」
「だから、お前たちが知ってる限りの情報を私に流してほしいアル。」
「・・・。リーダー・・・そんなことをしても銀時は喜ばんぞ・・・。」
「・・・・。」
また彼女は窓の方に視線を戻した。
今から俺が言おうとしていることから逃げるように。
「あの装置は幕府の連中が厳重に保管している。警備体制も、警備の人間の数も半端な数ではないと聞いている。まず、侵入するだけでも至難の技だろう。もしかしたら命を落とすかもしれん。」
「・・・・。」
「それにそんなことをすれば、幕府に刃向かった罪で、リーダーの首がとぶぞ・・・。」
「・・・・。」
「そんなことを銀時は望んでおらんはずだ・・・」
「・・・・。」
ずっと空を見つめたままこちらを見ようとしないリーダーを諭すように俺は言い聞かせた。
「・・・・。
そんなことわかってる・・・。」
小さな声が聞こえてきた。
「そんなことわかってるネ。
銀ちゃんがそんなこと望んでないってことくらい・・・。
でも・・・でも・・・私・・・どうしても受け入れられないネ・・・。」
「リーダー・・・」
碧く輝くその瞳は苦しそうにどこか遠くを見つめている。
「あの時、何か違っていたら、もっと違う未来が来ていたんじゃないかって・・・そう思うアル。
江戸は昔みたいに、うるさくて、汚くて、でもどこか安心できて、私の知ってる店が、人がいっぱいいて・・・それから・・・万事屋があったんじゃないかって・・・。
今でもそう思うネ。」
「・・・・・。」
「・・・余計なことしゃべりすぎたアルな。
ヅラ、警告ありがとナ!邪魔したアル。」
「・・・・。」
リーダーはにこりと笑って立ち上がった。
どこか寂しそうな、そんな笑顔だったが。
―――・・・・。
俺がこうしていくら諭したとしても、彼女は一人でも戦いにいくだろう。
・・例え自分の命を犠牲にしてでも・・・
なあ、銀時・・・
お前ならどうするんだろうな・・・・
「待て!」
「?!」
襖を引こうとしていた手が止まった。
『桂さん・・・?』
―――俺は・・・
馬鹿だからな・・・・
「リーダー、こんな噂を聞いたことないか?黒髪の長髪の男もその装置を狙っているという噂だ。」
「?!」
リーダーは目を見開いてこちらに振り向いた。
『あぁ。その噂有名ですよねえ。
白いペンギンのような生物もその男と一緒にその装置を狙ってるって噂らしいです。』
「エリー・・・・」
「その噂、本当らしいな。」
『ええ。もちろんです。』
リーダーは少し困惑した顔でこちらを見ている。
―――そういえば銀時・・・
お前も馬鹿だったはずだよな・・・
「なァ、リーダー・・・もしよかったら俺達に協力してくれないか?」
「・・・・!?」
リーダーはさっきよりももっと、大きな瞳を見開いた。
「そ、そんな!・・・お前たちに迷惑かけたくないネ!
私の所為でもう人が傷つくの見たくないアル・・・。」
そう言って、苦しそうに自分の腕を掴んで俯いた。
「・・・リーダー、俺達はリーダーに頼んでいるんだぞ。
もし俺達が怪我をしてもそれは自業自得だ。
・・・だから、俺達のためにともに闘ってほしい。」
彼女の瞳から涙が一筋こぼれた。
「・・・本気アルか?」
「本気じゃなかったらこんなこと頼まん。」
「死ぬかもしれないヨ・・・?」
『そんなことで我々攘夷志士は死なん!』
「だから・・・頼む!」
リーダーは肩を小さく震わせて俯いていたが、乱暴に目をこすってゆっくり顔をあげた。
「・・・・も、もちろんヨ・・・。私に任せるヨロシ。」
そしてニコリと笑った。
あの寂しさを感じさせない、あの頃の無邪気な笑顔で。
「そうか。協力感謝する。」
『あの有名な星海坊主の娘が味方だなんて心強いですね!』
俺達はそっとほほ笑んだ。
「ありがとネ・・・」
彼女は呟いたが、俺達は聞こえないふりをした。
雨はいつの間にか止んでいた。