私は恋する人魚姫
□第一話
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「ちょっとォォォォォ!神楽ちゃァァァァん!」
宮殿に僕の怒声がけたたましく鳴り響いた。
私は恋する人魚姫
「うるっさいアル!このダメガネがァァァ!!」
「ぐはッ!!!!」
逆ギレした神楽ちゃんのパンチが勢いよく僕にヒットした。
「いたたた・・・ちょっとォ!うるさいじゃないよ!神楽ちゃんのせいで僕坊主さんにどれだけこっぴどく怒られたかわかってんの?!」
僕は頬をさすりながら神楽ちゃんを睨みつけた。
「・・・・。なんで怒られたアルか??」
神楽ちゃんはケロッとした顔で僕に尋ねてくる。まったくこの小娘は!!
「・・・・。今日は神楽ちゃんの17歳の誕生日会だったでしょ!そこで歌を披露する予定だったじゃないか!」
「・・・・あ・・・。」
今思い出したようだ・・・。
神楽ちゃんの顔がみるみる青くなっていく。
「ぱ、ぱぴー怒ってたアルか・・・?」
「・・・。それはもう鬼のように・・・。」
「新八どうしよう?」
「困ったときだけ頼らないでください。」
神楽ちゃんは絶望の淵に立たされたような顔をしている。
「だいたいどこに行ってたの?!
宮殿の召使全員使って探し回ったんだよ?!」
「・・・・そ、それは・・・」
神楽ちゃんは肩に掛けていたカバンを背中にそっと隠した。
「ちょっと!何隠したの?!」
「やーめーろーやー!」
神楽ちゃんがなかなか放さないので無理やり引っ張った。
「あ!」
引っ張った勢いでカバンが飛んで中身が出てきてしまった。
「・・・・。」
「えーっと・・・あのォ・・・」
「またあの沈没船の所に行ってたの?」
「ち、ちがうアルよォ・・・なんかそこらへんに落ちてたアル・・・」
神楽ちゃんの顔は「嘘です」と言ってるかのように滝のように汗が出ている。
「ふー・・・もう本当に・・・。
あれだけあそこに行っちゃいけないって言ってるでしょうが!!!
もうちょっとマシなところに行っといてくれないと僕も言い訳できないでしょ!!」
僕が怒鳴りつけてももう反抗する気力は残っていないようだ。大人しく俯いて、僕の言うことにコクコクうなずいている。
―――紹介が遅くなったけど、僕は新八。
この海底の宮殿に仕える人魚だ。
僕は言ってみればお姫様の教育係で、そのお姫様というのが・・・・
「新八、説教長いアル・・・」
この目の前で欠伸をしているお転婆娘の神楽ちゃんだ。
僕はこのお姫様に毎回手を焼かされている。
人懐っこくて、好奇心旺盛なのはいいが、どうやら人間の世界に興味を持ってしまったらしい。
最近じゃ、沈没船に出かけて行き、何か拾ってくるのが日課になってしまっている。
こんなこと星海坊主さんに知られたら大変だ!
「神楽ちゃん・・・僕だって何度も言いたくないんだけど、人間の世界は危険なんだよ?
だからもう沈没船から何か拾ってくるのはやめて、歌のレッスンに参加しようよ。」
「歌なんていつでも歌えるネ!
それに人間は危険な生き物じゃないアル!
こんな素晴らしいものをたくさん作り出せるアルよ?」
そう言って神楽ちゃんはカバンから出てしまった中身をそっと拾い上げた。
「・・・・。でも星海坊主さんは許してくれないと思うよ?」
「ぱぴーの考え方は古いアル!だからあんな風に禿げてしまったアルよ・・・。」
「だーれがハゲだって?!」
「あ・・・今日もふさふさアルな・・・パピー・・・」
―――――――――――
「ふー・・・どっかのダメガネのせいで今日は怒られっぱなしアル・・・。」
「・・・。ねえ、それ誰のこと?
だいたい神楽ちゃんが自分の誕生日会すっぽかしちゃうのが悪いんでしょうが!」
「そんなの忘れるにきまってるアル!
でも沈没船に遊びに行ってることがばれなくてよかったアル!あのハゲにばれたら跡形もなく消し去られるに決まってるネ!」
そのあとフゥ・・とまた溜息をついた。
「・・・。なんでパピーはあんなに人間のこと嫌うアルか?」
「んー・・・きっと昔は人魚狩りとかがあったからじゃない?
なんか人魚の肉を食べたら不老不死になるとかいう噂があったみたいだからね。
きっと星海坊主さんは神楽ちゃんを危険な目にあわせたくないんだよ。」
「・・・・。」
神楽ちゃんは考え込んでしまった。
が・・・
「むがーッ!!やっぱムカつくネ!」
勢いよく起き上がり、部屋を出て行こうとしている。
「ちょ、ちょっと!どこ行くの?」
「私も17歳になったアル!
どこ行こうが勝手ネ!」
「ちょっと!ダメだよ!今日はもう外出るなって星海坊主さんに・・・」
「あんなハゲの言うことなんか聞いてらんないアル!私は今日から反抗期ネ!」
「いつも反抗してんだろーが!って・・・」
いつの間にか神楽ちゃんの姿は消えていた。
「ちょっとォォォ!また僕が叱られるじゃないか!!!」
僕も急いで神楽ちゃんを追いかけた。
「第一話」 end
2009.5.26