私は恋する人魚姫

□第四話
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必死だった。

彼を助けるために、必死で海を泳いだ。

こんなに必死に泳いだことなんてないくらい。


この人を死なせたくなかった。







第四話







私は彼が船の中に入ってしまってからずっと祈り続けていた。


「どうか・・・あの人が無事に帰ってこれますように・・・」

神様にお祈りなんてしたことなかったけれど、今だけは本気で祈りつづけていた。


ガタン!


「!」

何かが崩れる音がした。



―――まさか・・・

もし下敷きになんてなっていたらどうしよう・・・。



そう思っていた時・・・

「熱い」という声が聞こえて私はハッと振り向いた。


銀色・・・彼だ!


残念ながら山崎って人は一緒にいなかったがどうやら彼は無事らしい。



「よかった・・・」


私はほっと胸をなでおろした。



だが、次の瞬間・・・



ガタ、ガタン!



「!」


屋根が崩れてきて、彼の後頭部を打った。


「きゃあ!」


そのまま彼は気を失ってしまったらしく、倒れこんでしまった。
このままでは彼も一緒に燃えてしまう・・・。


「ダメアル!絶対死なせないネ!」


船から延びた彼の手を必死に引っ張って、海に落とした。

「うう・・・重い・・・」

彼をボートに乗せてあげたいところだが、どうも私の力では押し上げることができない。

「仕方ないアル・・・泳いで行くしかないみたいアルな・・・。」


私は彼を胸に抱きよせて、息ができるように顔を肩に乗せた。

胸が彼に当たってドキドキするが、今はそんなこと言っている場合ではない。


「よし!頑張るネ!」





そして必死に泳いだ。
さっきよりも波が高くなっていて、かなり泳ぎづらかったが、とにかく一生懸命だった。







どれくらいかかったのか分からないが、ようやく浜辺に着いた。
もうすぐ日が昇るようだ。すこし空が明るくなっていた。



私は抱きかかえていた彼をそっと浜辺に横たえた。少し覆いかぶさって彼を見つめた。

銀色の髪、鼻筋の通った顔、逞しい体・・・。

ドキリとまた心が跳ねた。


「・・・もしかして私・・・」

胸に手を当てると、自分の心臓がドキドキと早い鼓動を打っている。


この気持ちは・・・きっと・・・



「・・・そうだったんだ・・。」


ようやく気付いた気持ちにクスリと笑って私は歌い始めた。


そう・・・恋の歌を・・・。


私は昨日初めて会った彼に恋をしてしまっていたのだ。
恋なんて面倒臭くて、馬鹿らしいなんて思っていた私にとっての…初めての恋…。



歌いながら、眠っている彼の頬にそっと触れた。
それだけで心が嬉しいと叫んでる。

「!」

彼の手が私の手を包んだ。
そしてうっすらと目を開けた。
目が合った気がしたが次の瞬間…

「ん?」


胸に痛みを感じて、胸元を見てみると、がっしりとこいつに胸を掴まれていた。
その瞬間顔が急激に熱くなった。


「…こんのォ変態やろォォォォ!!」

「ぶべらッ!」


顔にめり込むくらいのパンチをかましてやると、鼻血をたらしてまた気を失ってしまった。


「なにアルか!こいつは!せっかく助けてやったのに!
私の歌が台無しネ!」

そう言いつつも、さっき掴まれた胸元がまだ熱く感じた。




「ワン!」


「!」



なにかの鳴き声が聞こえてきた。


「あ、あれは・・・確か・・・犬だっけ?」

浜辺を白い小さな犬が走ってくる。


「旦那ァ〜・・・いるんですかァ〜?!」

「!」


どうやらあの時一緒に船に乗っていた人達が、この犬に付いて彼を探しにきたようだ。
私は急いで海に戻り、近くの大きな岩陰に隠れた。






彼らは浜辺に横たわる「銀時」さんに急いで駆け寄ってきた。
そして、さっさと彼を担いで来た道をたどって帰ってしまった。
途中何度か彼はこちらに振り返ったような気がするけれど、このまま出ていくわけにもいかず、私は見ていることしかなかった。


「・・・・。」


彼らが見えなくなると、私はゆっくりと岩に登った。


「銀・・・時・・・」


私はもう一度、彼を思って歌った。
この気持ちをのせて・・・。



そして歌い終わった後、気付いた。



「あ・・・新八のこと忘れてた・・・」




「第四話」  end


2009.6.6

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