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□早く気付いて
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「あ……銀さん、あれ神楽ちゃんがないですか?」
買い物帰りに通りかかった公園の前で、いつもと少し様子のちがう、桃色の髪の少女を見かけて僕は立ち止まった。
早く気づいて
「神楽ァ?」
僕の少し前を歩く銀髪の僕の雇い主は、僕の声に気づいてこちらに振り向いた。
二日酔いらしく、少し顔色が悪い。
「ああ、どうせ近所のガキと缶けりでもやってんだろ?まったくガキは毎日元気でうらやましい限りだわ。」
早く帰りたいのか、そっけなくそう言うと、「まあほっときゃ夕飯までには帰ってくんだろ。」と、また万事屋の方向に歩き始めた。
「でも銀さん、今日は缶けりじゃないみたいですよ。」
「あー?なんだ?鬼ごっこか?」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「そう言うわけじゃなくてなんだよ?」
ようやく銀さんは足を止めて、また僕の方に振りかえった。
「今日はお喋り会みたいですよ。」
「・・・。あのね、新八君、銀さんガキの遊びに別に興味ないんだけど。
それに今銀さんは帰って寝たい気分なんですけど。」
そう言って電柱にもたれ掛かって、「あー気持ちわりィ」と呟いた。
「・・・そうですか。
いや、僕は神楽ちゃんが土方さんと楽しそうに喋ってたから気になっただけです。
でも銀さん顔色悪いですし帰りましょうか。」
銀さんの体がぴくりと反応した。
(・・・わかりやすいなぁ)
「・・・。新八君、今なんて言った?」
「銀さん顔色悪いから帰りましょうかって言いましたけど?」
銀さんの反応がおもしろくて、少し意地悪してしまった。
「え、いや、そっちじゃなくて・・・神楽ちゃん、誰と何してるって?」
「ああ、神楽ちゃんですか。土方さんと楽しくお話ししてます。」
「え・・・あの真撰組のトッシー君と?」
「ええ。」
「楽しくおしゃべり??」
「ええ。」
「・・・あのふたりって仲良かったっけ?」
「さぁ?でもなんかいい感じですけど。」
「・・・・。」
その瞬間、銀さんは二日酔いなんて忘れたみたいに僕の方に駆け寄ってきて、公園の方をキョロキョロ見まわした。
「銀さん、もしかして気になるんですか?」
「ば、馬鹿言うんじゃねェよ。
この前この辺で百円落としたの思い出して、ちょっと探してるだけだから。
別にあの二人が気になるとかじゃないからね。」
そう言いつつも、地面なんてまったく見ていなくて、くやしそうな顔してベンチで話している二人を見つめていた。
(・・・本当は神楽ちゃんのこと気になってるくせに・・・)
僕は知ってる。いつもガキガキ言ってバカにしてるけど、本当は銀さんは神楽ちゃんのことが好きなんだ。もちろん恋愛対象としての好きって意味で。まあ本人はまだ気づいてないみたいだけどね。
それにこういうのに鈍感な銀さんのことだ。
今感じてるその気持ちの正体にも気づいてないんだろうな。
「銀さん、さっきから貧乏ゆすりうるさいです。」
「え?あ、そう?
百円が見つかんなくてさァ〜」
「嘘つかなくていいですよ。さっきからあの二人ばっかり見てるくせに。それでイライラしてるんでしょ?」
「べ、別に見てねェよ!
・・・でもまあ百円探してるから、仕方なく視界に入ってきちゃうのは認めるよ?
まあそれに土方君も男だし?男はみんな獣だし?ちょっと心配して見てやってるだけだから。別にあの二人の所為でイライラしてるとか、そんなんじゃないからね?このイライラは百円のイライラだから。」
「はいはい。顔にウソって書いてありますよ?」
「なっ!お、お前もしかして銀さんが嘘ついてるとか思ってるわけ?
嘘じゃないからね?断じて嘘じゃないから!百円探してるから!」
「もう百円の話はいいです。
銀さん、まだ気づいてないんですか?
自分の気持ちに・・・」
「・・・え?」
きょとんとした顔で僕を見つめてきた。
やっぱり無自覚であの二人を見てイライラしてるみたいだ。
(・・・。まったく世話がやけるよ。)
「銀さん、本当は神楽ちゃんが土方さんと仲良くしてるのが気に食わないんでしょ?」
「べ、別に・・・」
「本当はあの二人の邪魔したくて仕方ないんでしょ?」
「え・・・・。」
「本当は神楽ちゃんを今すぐ家に連れて帰りたいんでしょ?」
「・・・・。」
図星だったのか、銀さんはようやく静かになって、「なんでわかんだよ?」とでも言いそうな顔で僕の顔をまじまじと見つめた。
「僕が言うのもなんですけど・・・そういうのってやきもちって言うんじゃないですか?」
「・・・・は?」
「だーかーら!銀さんは、神楽ちゃんにやきもちやいてるんですよ!」
「な、なんで俺があいつにやきもちなんてやかなきゃなんねェんだよ!あ、あんなガキに」
「そ、それは・・・・」
(ちょっとォ!ここまで言ったら自分で気づいて下さいよ!)
「銀ちゃん、新八、こんなとこでなにしてるアルか?」
「「え・・・?」」
話すことに夢中になっていて気付かなかったけれど、いつのまにか土方さんとのおしゃべりを終えて、神楽ちゃんが隣に立っていた。
「か、神楽ちゃん、今の話聞いてた?」
「今の話?何の話アルか?」
よかった・・・聞かれてなかったみたいだ。
神楽ちゃんは首をかしげて考え込んでいる。
「あ・・・もしかして夕ごはんの話アルか?!二人だけでずるいネ!私にも教えろヨ!」
「あはは・・・まあそんなとこかな?」
ふうと一息ついて銀さんを見ると、不満そうな顔して神楽ちゃんを見ている。
「銀ちゃんどうしたアルか?さっきから静かアルな。それに顔も怖いヨ?もしかして気分悪いアルか?」
「え・・・いや大丈夫だ」
神楽ちゃんに声をかけてもらって嬉しいのか、少し顔がゆるんだ。
(・・・よし。ここは僕が一肌脱いでやるか)
「神楽ちゃん、土方さんと何話してたの?」
やっぱり気になっていたのか、銀さんがの肩がぴくりと反応した。
「え・・・見てたアルか?」
「うん。買い物帰りにちょっと公園覗いたらたまたま。」
「・・・・。」
「なんだよ?見られちゃまずかったのか?」
拗ねたように声をかける銀さん。
すると神楽ちゃんは小さくうなずいた。
「秘密にしておきたかったのに・・・。」
「え・・・」
「まだ知られたくなかったアル・・・。
あのね・・・実は・・・」
「・・・・。」
そう言って神楽ちゃんはゆっくり俯いた。
銀さんを見てみると、苦しそうな顔で神楽ちゃんをじっと見つめている。
(銀さん・・・)
「お前ら、もしかして付き合って・・・」
銀さんが口を開いた瞬間・・・
「じゃじゃあ〜ん♪『えいりあんVSやくざ2』のペアチケットアル〜!」
神楽ちゃんはポケットから2枚のチケットを取り出した。
「え・・・?」
「もらったアル!トッシーに!」
目を丸くしている銀さんに嬉しそうにチケットを見せた。
「・・・なんでもらったんだよ?」
「えっとね、実はトッシーこの映画の大ファンで、みんなにこの映画の素晴らしさを広めるために今このチケットを配ってるのヨ。
それでね、私も欲しいって言ったら、くれるかわりに、散々兄貴がどうとか、えいりあんがどうとか話聞かされたアル。もうめっさ長くてめっさ退屈だったネ!」
うんざりな顔をして首を横にふった。
「・・・でもやけに楽しそうだったじゃねェか。」
「あー・・・それはね・・・えっとォ・・・」
恥ずかしそうに俯く神楽ちゃん。
「それは・・・それはね、銀ちゃんのこと話してたからアル。」
「え・・・」
「えいりあんの話してたらね、前に銀ちゃんが私をえいりあんから助けてくれた時のこと思い出したのヨ。それでね、話が銀ちゃんの話に変わって、今度は私が銀ちゃんの話ばっかりしたアル。」
「・・・・。」
「えへへ・・・でもね、そしたら次はトッシーがうんざりしちゃって・・・それでチケット貰ってバイバイしたアル。」
そう言ってにっこり笑った。
(ふふ・・・やっぱりね。)
「あ、あのね・・・銀ちゃん、せっかくチケット2枚貰ったアルから・・・だから・・・銀ちゃん、今度一緒に行こうヨ?」
神楽ちゃんは、照れて固まっている銀さんの腕に抱きついて、恥ずかしそうにそう呟いた。
「・・・・。」
「・・・ダメアルか?」
銀さんは固まったままだ。
(・・・まったくもう!
こういうのには本当ダメなんだから!)
「銀さん、行ってきてあげて下さいよ。」
そう言ってぽんと背中を押してやった。
「・・・・仕方ねェなァ。」
面倒くさそうに頭を掻きながらぼそりと呟いた。
まったく・・・本当に素直じゃないおっさんだよ。
それでも神楽ちゃんは嬉しそうに「キャッホォォ!」と飛び跳ねて喜んだ。
銀さんは「うるせーよ!」って怒ってたけど、いつもより声が優しくて、心なしか顔が赤く見えた。まあ本人に言ったら夕日の所為だって言うんだろうけどね。
僕は隣でずっとその二人を微笑みながら見つめていた。
――――――――――――
「でも神楽ちゃん、なんで秘密にしておきたかったの?」
帰り道、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「公開日まで黙っといて、バックリさせたかったのヨ」
「ドッキリな、ドッキリ。」
そう言って銀さんが僕らの前をすたすた歩いて行った。
「うふふ・・・でもね、もう一個理由がアルのヨ?」
「え?何それ?」
少し距離の空いた銀さんの背中を見つめながら神楽ちゃんが嬉しそうに呟いた。
「私とトッシーがお話してたら・・・銀ちゃんがやきもちやいちゃうからネ」
僕らは見つめ合って、くすりと笑い合った。
「オイ!さっさと帰んぞ!」
「あ!は〜い!」
「待ってヨ!銀ちゃん!」
銀さん、早く自分の気持ちに気づいて下さいね?
もう神楽ちゃんにも気付かれてるみたいですよ?
fin
紫園様お待たせいたしました!