★SHORT★

□桜
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お前と桜を見るのは、
もう何度目になるだろう。

来年も再来年も…いつまでも…













「銀ちゃん!銀ちゃん!早く!早く!」


桃色の髪の少女が俺の腕を引っ張っる。

「分かった!分かったから!
そんなに引っ張んじゃねーよッ!
銀さんの腕がもげる!」
「何言ってるアルか?
銀ちゃんがトロトロしてるからアル!」

その少女は振り向いて腰に手をあて頬を膨らませて俺を睨み付けてきた。

出会った時より少し背は伸びたが、それでも俺より遥かに小さいため上目使いになる。

…そんな可愛い顔で睨まれても全然怖くないっての。


「分ぁーったからそう膨れんな。
そんな顔してっと新八みたいなダメガネになんぞ。」
「マジでか?!
私新八みたいなダメガネになるなんて御免アル!」


ダメガネこと新八が此処にいたら、今頃鋭いツッコミを入れているんだろうが、今は万事屋で掃除洗濯家事全般を鼻歌まじりでこなしているだろう。
まったくよく出来たお母さんだよ。あいつは。
今日もきっと俺らに気をきかせて2人きりにしてくれたんだろう。



「んな急がなくても桜は逃げやしねぇよ。」
「嫌ヨ!私が待てないアル!
いいからつべこべ言わずに早く行くアルよ!」
「え?!ちょッ!オイッ!」
少女は俺の手をとり勢いよく走り出した。





「神楽ちゃーん…ちょっと…もう銀さん限界!」

神楽がやっと止まってくれたので、俺は俯いていた顔をあげた。

-----そこには神楽が旅立った日に約束した見事な桜並木が広がっていた。



「わぁ…やっぱり綺麗アルなぁ…」
神楽を顔を覗くと大きな目を見開いて嬉しそうに桜を眺めていた。

「…そーだな。」




コイツにはよく桜が似合うと思う。
まあそもそも頭桃色だしな。
約束もここの桜を見ることだったんだし、神楽も桜が好きなんだろう。
さっきからうっとりと目を細めている。



…はずかしいから言わねぇが、神楽が江戸を離れていた間は桜を見ては一人神楽との思い出に浸ったりしたもんだ。



ふと柔らかな風が神楽の長い髪をそっとなびかせた。
風でなびくその髪は桜に負けず劣らず綺麗だ。

神楽はしばらく桜を眺めていたがふと俺の方に振り向いた。

「………。」
「…なんだよ。」

さっきから俺の方をじっと見ている。

「…銀ちゃん。天パに桜の花びら絡まってるアルよ?」

そっと手を伸ばして俺の頭から花びらを取ってニシシ笑った。


「違いますぅー。
絡めてるんですぅー。
新八達に持っ帰ってやるんですぅー。」
「マジでか?!
邪魔してごめんアル!
じゃあ私も手伝うヨ。」

俺の言う事を素直に信じて神楽は花びらを集めるためにぴょんぴょん飛び回りはじめた。


「銀ちゃんもしっかり天パに絡めるアルヨ!」
冗談のつもりだったが、この酢昆布娘はどうやら本気にしちまったらしい。
真剣に降り注ぐ桜の花びらを両手で集めている。
「ったく…アイツには参るわ…。」
そう言いつつも俺の頬は緩んでいた。





「銀ちゃん!銀ちゃん!見て見て!」
両手の平いっぱいに桜の花びらを集めて神楽がベンチに座った俺の元に走ってきた。
「お〜…それだけありゃアイツらも喜ぶだろ」
「キャッホォ!!」

そう言って飛び跳ねると、俺の頭に集めた花びらを乗せた。
俺の頭の上には花びらの山が出来た。

「え?何?お前何やってんの?」
「だって銀ちゃん天パにわざと絡めてるんでしょ?
それに持って帰るための袋ないアル。」
「だからって俺の頭に乗っけんじゃねーよ!
いくら銀さんの天パがすごくてもこんなに絡まりきれねぇよ!」
「いや、銀時、お前なら出来る!」
「どっからくんだよ!
その自信は!」
「まぁまぁ。
とりあえずそのまま持って帰るヨロシ。」

勝手に話しを付けて、神楽は万事屋の方向に向いて歩きだそうとしている。




………。




「神楽…。」



神楽の細い腕を掴んで足を止めさせる。




「…?
どうしたアルか?
銀ちゃん?」


不思議そうに振り向いた神楽に俺はドキリとした…。
心拍数が高まっていくのが自分でも分かる…。



「え、えーと…その…あのォ…。」


あれだけ悩んで考えたのに、なかなか言いたい言葉を言い出せない…。
いつもあれだけ減らず口を叩いている自分は一体何処にいっちまったんだろう。



「銀ちゃん?さっきからそんな怖い顔してどうしたアルか?
もしかして花びら頭に乗っけた事まだ怒ってるアルか?」

俺がなかなか始めないので神楽は心配そうな顔でこちらを見つめている。


そうだ…いつまでもこうして黙ってはいられない。
今なら茶化して何もなかったことに出来るだろう。



でも…



「…ちげーよ…。」

「?」




……でも…今日は…



今日こそは…




お前に伝えようと思う…





ずっと…お前に伝えたかった…


この思いを…





春の風が俺の背中を押してくれた気がした…………








「………神楽………










ずっと…








ずっと俺の側で江戸の桜を見てくれねぇか。」




…そして着流しから取り出した小さな箱をそっと神楽の手の平に乗せた…。



風がまた桜を乗せて吹き抜けていく…







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