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□00.微妙な距離のふたり
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一体いつからだろうか?
あれだけ毎日当たり前の様に目の当たりにしていた光景を見ることが出来なくなってしまったのは
一体いつからだっただろうか?
あれだけ仲の良かった二人の間に、距離を感じる様になってしまったのは……
微妙な距離のふたり
「オイ、新八ィ〜」
低くてやる気のない声に名前を呼ばれる。
「なんですか?」
掃除機をかけていた手を止めて、ジャンプ片手にだらし無くソファーに寝そべる彼に近付いていく。
「銀さん苺牛乳が飲みたいんだけどー」
その銀色の侍は、ジャンプから目を離さずに僕にそう言うと、小指で鼻をほじりながら、ペラペラとページをめくる。
「あぁ、苺牛乳ですか?苺牛乳なら今切れてますよ。」
さっき冷蔵庫見たときありませんでしたからと伝えると、彼は「はぁ?」という声と共に、ジャンプから顔を上げて、僕の顔をジロリと睨みつけた。
「オイオイ、お前ふざけるんじゃねぇよ。銀さんあれないとなんもできねぇって知ってんだろ。」
眉をピクピク動かしながらそう言うと、「だからお前はいつまでたっても新八なんだよ」と、はぁという深い溜息と共にそう呟いた。
「あの、新八を馬鹿にするのはやめて下さい。大体銀さんはあれがあっても何もしないでしょうが。」
「うるせーよダメガネ。とにかく銀さんは苺牛乳が飲みてぇんだよ」
「早く買ってこい」と僕に命じると、またジャンプに目を落とし、ページをめくり始めた。
「銀ちゃん、私今からコンビニ行ってくるから買って来てあげるヨ?」
「あ、神楽ちゃん」
突然聞こえてきた高い声に振り返ってみると、寝間着から着替えを終えた、赤いチャイナ服の彼女が立っていた。
それと同時に銀さんのページをめくる手がピタリと止まる。
どことなく空気が重たくなった。
「………。」
「あ、そうだ!調度いいじゃないですか!銀さんも一緒に行って来たらどうですか?」
突然流れ始めた気まずい空気を変えたくて、僕は思わず口を開いた。
「朝からずっとだらだらしてますし、調度いい運動ですよ!それに実はいろいろ買って来てほしいものがあったんですよねぇ!だから二人でお使いでも……」
「いや、やっぱいいわ。別にそこまで飲みたい訳じゃねぇし。」
銀さんは、僕の言葉を遮って、そう言うと、「昼寝するわ」とジャンプを顔に被せて、僕らに背を向けた。
「銀さん、お使いは…」
銀さんの肩を叩こうと伸ばした腕を神楽ちゃんに掴まれた。
「いいヨ、新八。私一人で行ってくるネ」
「いや、でも神楽ちゃん…」
「私が一人で行けるって言ってんだから、そんな心配そうな顔すんじゃねぇヨ。私だってもうガキじゃねぇんだから一人でお使いくらいちゃんと出来るアル。」
僕がうんともすんとも言えずにいると、「任せるヨロシ」と、ポンと自分の胸を叩いた。
「本当に一人でいいの?」と彼女に尋ねると、「うん」とコクリと頷いて、「優しい神楽様に感謝しろヨ」と、ニッ笑った。
それからお使いリストを掴むと、「行ってくるネ」と玄関を飛び出して行ってしまった。
「……神楽ちゃん……」
銀さんと二人きりになった僕は、その背中をぼんやりと見つめた。
なんでだろう……
昔はこんなことなかったのにな……
瞳を閉じて、そう遠くない、あの頃の僕らを思い浮かべる。
あの頃の二人は、僕がお使いを頼んだら、決まって嫌そうな顔をして、それから合わせた様に息ピッタリで、僕に文句を言ったんだ。その後どっちが行くかでジャンケンしては、銀さんがズルをして、取っ組み合いの喧嘩になっちゃうもんだから、僕が慌て止めたよね。
だから毎回、結局最後には二人でお使いに行くことになってた。それからしばらくすると、喧嘩したのが嘘みたいに、万事屋まで競争なんかして、仲良く二人で帰ってきたんだ。
そのせいで、頼んでた卵が全部割れてた、なんてよくあって、最後は僕に怒られるっていうお決まりのパターンが二人にはあったんだ。
いや、お使いだけじゃない。
気が付けば二人はいつも一緒にいて、馬鹿なことばかりを繰り返しては、僕を困らせていたよね。
でも僕は……そんな二人が大好きだったんだ。
当たり前みたいに、隣同士で笑い合う二人が……
でも……
でも、いつからか、そんな光景は見られなくなってしまったんだ。
ある時を境に、二人の間におかしな空気が流れ始めたんだ。
始めは喧嘩でもしているのかと思って、時間が経てば仲直りするだろうと、僕はそこまで気にもしていなかった。
けれど、時間が経てば経つほど、それは悪化していって……
銀さんは神楽ちゃんを時々避ける様な態度をとる様になって……それを恐れるように、神楽ちゃんも銀さんに声を掛けなくなっていった。
神楽ちゃんに何かあったのかと尋ねたけれど、「何もないヨ」と、「変な新八アル」と笑ってごまかされてしまった。もちろん「何もない」だなんて、そんな訳なくて、納得出来なかったけれど、でも、その時の神楽ちゃんの笑顔があまりにも痛々しくて、僕はもうそれ以上何も聞くことが出来なくなってしまったんだ。
「なんでですか……」
僕の中の二人は、簡単なことでは決して崩れたりなんてしない、血の繋がりなんかよりずっと深い絆で結ばれているのだと信じていたのに……
「どうして……」
お互いがお互いを何よりずっと大切に思い合っているのだと、ずっとそう思っていたのに……
「教えて下さいよ……銀さん……」
開いてしまった二人の距離が、ひどくもどかしく思えた……
つづく……
あれ?微妙な距離じゃないよね?これ……(゜▽゜)