創竜伝 小説

□雪のひとひら
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「茉理ちゃん。そろそろ時間じゃないか?」

「あっ!本当だわ!!始さん、ありがとうね!続さんにも宜しく伝えて!あと、終君には今度おっきいアップルパイ持ってくるわ。じゃぁね余君!変な夢見てうなされないでね!」


一気に言い放って家を出て行く茉理に始が玄関まで見送りに出た。



「はぁ…」



急にシーンとなった家にため息が響く。

終から殴られた頬が痛む。

別に血など出てはないが、鈍痛が残っている。



居間に戻ると、まだ余がソファと仲良くしていた。


「…余」

「う〜ん…大丈夫だよ。なんだか『む〜ん』な気持ち」



よく解らない表現だが、言葉に出来ない複雑な心境なのだろうと始は思った。



「そういえば、今日は期末テストだったな。どうだった?」

「赤点以上は取ったと思うから大丈夫」

「あ…余…だよな?」



終らしい返答が余から出るなんてと驚き、どこから突っ込めばいいか迷った。



「やっぱり嫌だ」



急に起き出して、横のソファに座っている始をじっと見つめた。



「ん?」



怒りが籠もった目で長兄を見る。

穏やかで心優しい末っ子がこんな目をするのは珍しい。

ましてや、兄弟に対して怒るのは稀である。



「もう二度としないさ」


何が『嫌』なのかなんて、確認しなくても始には解った。

本当に二度とすることは絶対にない。



「絶対だよっ!!」

「あぁ。約束する。というより、二度と出来ないさ…」

「出来ない?」

「…あぁ」



余から視線を外し下を向く。

自分の大きな節ばった両手を見つめる。



「…続のな…」

「続兄さんの?」



続の温かく柔らかい首の感触が手から消えない。

本当に柔らかかったのだ。

マシュマロみたいなとはまさしくこの事だろう。

添えるだけの両手にじんわりと馴染む感じの白い首。

ほんの少しでも力を込めれば壊れそうな程にか弱く思えた。


演技とはいえ、こんなにも愛おしい体に手をかける真似をした罪悪感は消えそうもない。



「始兄さん?」

「終にも悪いことをしたな…」

「?そういえば、終兄さんは?」

「…終はな」



終は始を殴った後、バイトに出掛けた続を追っていったきりだ。

もちろん、演技であることは説明したし理解もしたはずだ。

だが、やはり終も理性より感情が脳を支配したのだろう。




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