炎の蜃気楼 小説

□WISH
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 彼を始めて見たのは、霙の夜だった


ガソリンスタンドの煌々とした中を元気に走り回る彼は、生きる瑞々しさに溢れているように見えた

自分には明らかに縁のない物だとつくづく思って苦笑してしまった


―だが、羨ましいとは少しも思わなかった


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「皆もすでに知っているだろうが、私の養子になった「仰木高耶」だ。今日からこの上杉家で暮らす事になった。皆頼むぞ」

都心から少し離れた閑静な住宅地にこの家はあった

昔ながらの旧家が建ち並ぶこの地域は、明治後期から昭和初期を思わせる風情がある

その中でも、一際古く立派な三階建ての屋敷が二件並んで建っていた。和風な造りの「上杉家」

そして、今年リフォームしたばかりの洋風な「直江家」である

上杉家の家長である上杉謙信は、従業員十余万人を抱える不動産業を生業とした「上杉グループ」の総領だ

齢四一歳になる謙信は仕事一筋にだけ生きてきたため、家庭を持たずにいた
それがライバル会社である「北条グループ」との姉妹会社契約において、関東一円の土地管理優先を上杉にゆずり、代わりに養子として「高耶」が謙信の元にきたのだった

次期、上杉グループの総領として

「高耶、分からない事があったら遠慮せずに皆に聞きなさい。今日からここがお前の家なのだからな」

 広々とした応接室に謙信の声が響き渡る

謙信の横に立っている高耶は微かに頷くだけの返事を返した

部屋の中には、謙信を中心として重役の面々が顔を並べている。高耶に対して好意を示している視線より、嫌意の方多い

口には出さずとも、蔑み、嫉妬などの感情を全身から漂わせている

もしかしたら、
次期社長かもしれない。もしかしたら、
近い将来この者の部下として動かなければならない
北条に吸収合併されるかもしれない

自分の立場を危うくしかねない
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