鋼の錬金術師 小説
□豆の成長日記★A
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街の中心部だというのに、静まり返っている時間。
昼間の喧騒など嘘のように自分の靴音だけが響き渡る。
残暑もとうに過ぎた夜…
そろそろ涼しくなってきてもいいだろう……
今日の中尉も怖かったな〜…
なんて思い出しながら帰路に着くと、珍しい客人が待ち構えていた。
玄関ドアの前に、
ちんまりと
座り込んでいる
赤コートに身を包んだ少年。
私に気付いたのか顔を上げた。
私を待っていただろうに、驚いた顔をした後、バツが悪そうな顔をしてみせた。
「…こ…こんばんは?」
「……こんばんは」
◇◆豆の成長日記★A◆◇
「来たなら司令部に顔を出しなさい」
「……まだ、司令部には用がなっていうか…」
シャワーを浴びた私は、またいつものように小汚い彼をもシャワーを浴びるようにタオルを渡した。
着替えは私のワイシャツでいいだろう。
「……いきなり来て…ゴメンナサイ」
「Σっ!?は…鋼の!?」
いきなり謝ってきた殊勝なエドワードにまた驚かされた。
何か…今日の彼はおかしい…
普段の傲岸不遜な態度の彼が今日はしおらしいのだ。
渡したタオルを抱きしめている姿は、何か私に言いたい事があるのだろうか?
俯いているから表情までは分からない。
「話があるんだね?」
「…うん」
「言ってごらん」
「…………」
「鋼の?」
「…アルには……内緒にして欲しいんだ」
「何をかね?」
「……オレが……大佐に会いに来た事と…後…」
「後?」
歯切れが悪い話し方のエドワードに私の方が不安になってきた。
ふと、私を見上げて、おもむろに左腕を持ち上げ手袋を外し、袖を捲った。
「なっ!!」
「…コレ…内緒にしてくれ」
「ばっ!馬鹿者っ!!」
袖を捲って現れた、3本のひっかき傷。
肘から手の甲まで伸びている傷は、まだ血をうっすらと浮かべ、膿んでしまって腫れている。
はっきり言って重傷だ!
「もっと早く言いなさいっ!」
私の怒鳴り声にビクッと肩を竦ませた。
「着替えるから待ちなさい。直ぐ軍病院に行くぞ」
「ヤダっ!!病院に行きたくねえからここに来たのにっ!!」
「バカたれ!!ヤダじゃないっ!病院に行くんだ!!」
「じゃぁもういい!!帰るっ!!」
踵を返し、玄関に向かって走ってしまった。
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