ハガレン不動産 小説
□松
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「私は樹の言い伝えなど信じないからな」
―言い伝え?
「でも、知ってて損はないわ」
「縁起ものとか、拘る人がまだいますからね」
―なになに??
「なぁ?なんの話?」
「だから、エドワード。さっき『家の裏にある松がダメ』と言っただろう?」
「言った」
「松はな『家の前』ならいいんだ」
―えぇぇぇ!?
「『角松』は玄関とか入れ口に置くでしょ」
ホークアイ部長は分かり易く教えてくれる。
マスタング店長は遠回し過ぎるっ!
「昔からね、松には神様が付いてて家を護ってくれると言い伝えがあるの。だから、逆に家の裏に松があるっていうことは、神様に対して『あなたの力は要りません。結構です』って意思表示していると同じなのよ」
「Σダメじゃん!あの物件っ!!」
「仕方ないさ。裏の家の松なんだから」
涼しい顔してアイスコーヒーを飲むマスタング店長を睨む。
―もっと早く教えてくれればいいのにっ!!
「もっと諸事に興味を持つことだな」
こっちが言わんとする事を察してニヤリと笑った。
「じゃぁさ、ホークアイ部長!藤棚は?!」
「私も親から聞いただけだから、それでも良いかしら?」
なんども頭をを上下に揺らした。
「藤やキュウイなど、花や実がぶら下がる植物は庭先に植えてはならないって聞いたわ」
「なんで?」
「ぶら下がるから」
ここで『何が』と聞かなくなるぐらいには成長したさ。
「他には?」
「そうねぇ。理由は分からないけど桜も植えてはいけないそうよ」
「むやみに切ってもダメなんだろ?」
「移動させると泣く樹もあるみたいよ」
樹って………
メンドイなぁ
「大きくなった樹を切るときは、ちゃんと御祓いしないとね。覚えておいてね、エドワード君」
「はぁい」
「もう一度、さっきのお客様に会うといいさ。契約にはならないだろうが勉強にはなるだろう。ただ鵜呑みにするのではなく、ちゃんと自分で考えるんだぞ」
「……へーい」
「なんだね。その反応の違いは」
マスタング店長には素直になれないオレ。
なんだろぉな…自分でも分からないけど。
「お願いだから、変な宗教には入らないでネ」
アルフォンスの軽口に「オレが入会したら巻き込んでやる」とやり返した。
つくづく不動産業って、大変だ………
end