ハガレン不動産 小説
□道標
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みんな口を揃えて言う。
『そんなんあったん?』
―えぇぇぇ!?
本当に知らないみたいだ。
田舎のちっさい集落で、心も玄関もオープンのままのみんなが『知らない』と言う。
別に隠してあった訳じゃない。
道路からも良く見える。
(オレも気付かなかったけど……)
知ってしまえば、目に付く。
泣く泣くマスタング店長に助け舟をお願いするしかなさそうだ……
「みんな知らないって言うんだ」
『そうか。知らないって事は、興味を引くようなウワサもないって事だな。役場に行きなさい。教育委員会で風土集や文化財を担当している人に写真を見せなさい』
教育委員会。
埋蔵文化財で聞き込みをよくしているところだ。ここに保管されている書籍の数々…一回でいいから読んでみたいっ!!!
そんなオレの気持ちを察してか、目の前のテーブルに次々と本が積み重なってきた。
始めは、担当者だけだったのに今ではフロアの年配者全員が集まったυ
「墓石っぽい」
「あの本にありそうだ」「道標か?」
「記述がない」
「元々の地主の土地神」「文政元年だから道祖神ではない」
「遺跡跡なら大変だ」
椅子に小さく座っているオレの頭上で言葉が行き交う。
「現地に行こう」
教育委員会の面々(6人)に連れられて、現地調査だ。
やっぱり慣れている。
石の右側面に
『右 ○○神社
卯 ××××××
左 杉沢村』
真ん中の××××××が解読出来ないほどに風化されていた。
たぶん、設置者だろうということらしい。
明らかになった。
『道標だ』
現存する神社の名と、約100年前まであった村の名前。
今は廃村で地図にはない。
教育委員会に従事している人じゃないと分からない事だから、現地調査して良かった。
「神社に聞いてみなさい」
なるほど。
ここは、隣合わせで神社と寺の両方ある。
宮司さんの家を聞いて行ってみた。
「あぁ、そういえば在ったな」
「アレは何ですか?」
「昔から在ったからなぁ。寺には関係ないよ」
「曰く付き?」
「いやいや。墓でもないし、なんだろうな。うちが何かした事はありません」
―墓では無い。曰く付きでもない。
「自治会長さんとこに行ってみろ」
提案してくれた宮司さんにお礼を言って別れた。
よし、次は自治会長だ!
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