創竜伝 小説

□雪のひとひら
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◇◆◇◆



「…おい!余っ!?」


軽く頬を叩かれ、強制的に意識を現世へ戻された。


「始さんどうしよう!余君が余君が…」

「…ま…まつりちゃん…?」

「余っ!!気付いたか!?」

「始兄さん…?」



僕は……居間のソファーに寝ていた…?


上半身を起こし、すっきりしない頭を軽く左右に振り、顔面を両手で覆った。


なんか…嫌なモノを見たような……



「余…?」


心配そうな長兄の声に顔を上げた。



酷く辛そうな表情をしている始に何かを思い出した。



「は、始兄さんっ!!続兄さんは!?なんで!?なんで!?続兄さんがっ!」



始の胸元のワイシャツを握り締め、一心不乱にたたみかける。



「落ち着け!」

「だって続兄さんが!!」

「余っ!!」



始の一喝に余の呼吸が一瞬乱れた。

二人の視線が絡む。

涙が滲む大きな瞳と
清廉された澄んだ瞳が
見つめ合う。


余が自分を取り戻す間合いで、茉理が横から口を挟んだ。

とってもすまなそうな顔をして。



「あ、あのね余君。お芝居なの。続さんは、ちゃんと生きてるから」



悲壮感を漂わせていた余の空気が変わった。



「…え?…おしばい??」

「そう。お芝居なの。演技なの」



茉理が繰り返す言葉に余があまりもの脱力感にソファに倒れ込んだ。



「…あ…は…ハハハ…」

「余…すまなかったな」


苦笑いしか出ない余に、始が謝罪をする。

こちらも苦笑いしか出ないようだ。


まさか、タイミング良く終と余に見つかるとは思わなかったし、余が気絶するとも思わなかった。

そして、終から殴られるとは思わなかった…。



「ごめんなさい余君!私がねお願いしたの」


ソファに顔を俯せている余の頭を撫でながら、茉理が説明した。


大学の行事で学部対抗の演劇大会をすることになり、その演出を茉理が任せられたとのこと。



「なんかね、思い描くことと実際に動いてみるとじゃぁ全然違うのよ」

「…だから始兄さんと続兄さんに?」

「そういうわけ。やっぱり臨場感とクオリティはとことん追求しないとね!」

「…は…はは…」


熱く熱く語る茉理に、いつものように「楽しみにしてるね」など言えるほどまだ立ち直れない。





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