ツナヒバ

□古城の孤独なヴァンパイア
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「隠してる、事…?」

「うん…」


俺と目の前にいる君は記憶喪失。
しかし何かを隠している、というのだ。

今の俺にはまさか警察を本当に呼んだのかとか、
実は記憶喪失なんて嘘だと言うんじゃないだろうかとか、そんな事しか浮かんでこない。


「でも貴方が居なくなるのは嫌、だから…言いたくないな…」


抱きついたまま上目使いでそう言う彼を一瞬可愛いと思ってしまったが、やはり俺は警察に連行されるんじゃないかという不安が一気に募る。

しかしこちらを見る君の表情は何故か悲しげでいて真剣な色を瞳に浮かべていた。


「僕…目が覚めた時からものすごく喉が乾いて…」

「水が無いなら俺が探して…」

「水じゃダメなの」


正直何を言っているのか分からなかった。
けれど彼はだんだんと苦しそうになっていて、それを抑えるように俺に抱きついている。
そのせいで彼が酷く震えていることも伝わってきた。


「恭弥!?一体どうしたんだよ…」

「僕…このままじゃ死んじゃう…」


そう言う彼の震えは止まらなくて、不安が増していく。


「恭弥!隠してる事に関係あるなら言ってよ!」

「でも…」

「君1人を置いて居なくなったり、しないから…」


とにかく心配で、勝手に口から出てきた言葉。
いつか同じ事を誰かに言ったような気がするのは、何故だろうか。


「綱吉…」


今まで俺の胸に埋めていた恭弥が顔をあげた。


「あれ、恭弥…?」


思わず俺は声をあげた。
何故って、恭弥の目が、先程まで漆黒だったはずが、真紅に染まっているのだ。
そう言えば倒れる前に初めてみた時も赤かった気がするが、ついさっきまでは黒かったはず。
光の具合で違って見えるのだろうかとも思ったが、やはり明らかに違う。


「恭弥、目が…」

「…怖い?気持ち悪い?嫌なら逃げても良いんだよ」

「何言ってるんだ?すごく綺麗だよ」


怖いとか気持ち悪いとか、正直言って一欠片も思わなかった。
彼の白い肌と深紅の唇と絶妙なコントラストを測っていて、ただ純粋に美しいと思う。


「…貴方…馬鹿?」

「僕を置いて逃げる最後のチャンスだったのに」


そう言うと、恭弥は俺の首に腕を回して、その深紅の瞳を俺に向ける。
俺の目を穴が空くほど見つめたあと、決心したように唇を開いた。


「ねぇ、綱吉…信じないかもしれないけど」

「僕、人間じゃないんだ」

「…は?」


まさか人間じゃない等と言われるとは思うはずもなく、思わず間抜けな声が漏れる。


「ごめんなさい、いきなり変なこと言って」


相変わらず恭弥が悲しそうに笑うから、からかわれている訳では無いのだと、信じてしまう。

でもこの子が仮に人間では無いとして、一体何者だと言うのだ。
確かに同じ人間とは思えないずば抜けた美しい容姿をしているとは思うが。
ただ、記憶喪失な俺の脳では何も考えられる気がしない。


「僕、自分の事は分かってるて、言ったよね」

「うん…」

「目が覚めたら僕と貴方の名前と、自分の正体と、自分が今何を欲しているのか、それだけが頭の中にあって…」


先程とは打って変わり、ずっと俺の目を見て話している。
その赤い瞳が、一瞬血に飢えた獣ように見えたのは、気のせいだろうか。


「酷い喉の渇きが襲ってきて、そしたら血塗れの貴方がいて、その貴方の『血』がすごく、美味しそう、だ、って…思ったの」


そう言うと彼は赤い舌を覗かせて、同じく深紅のように赤い唇をゆっくりと舐め、妖艶に微笑む。
その怪しくも美しい表情に俺は思わず息を呑んだ。


「それって、どういう…」


嗚々、俺はこれ以上この子の話を聞いて良いのだろうか、そう頭の中で危険だとサイレンがなっているのに。
俺の好奇心のせいか、それともこの綺麗な声に惑わされているのか、俺はピクリとも動くことが出来なかった。


「ねぇ、吸血鬼って存在、覚えてる?」

「吸血…鬼?」

「そのままの意味だよ、血を吸う鬼。でしょ?」


僕その、吸血鬼なんだ。


そう言った恭弥の唇から、人間ではあるはずのない牙の様なものが顔を出した。

人間を惑わせる様な美しい容姿に、青白い肌に、漆黒から深紅へと変色する瞳に、鋭い牙に。
嗚々、これが吸血鬼と言うものなのだと、頭のどこかで自分の記憶が言っているような、そんな気がした。


「…俺を殺すのかな君は」

「殺さないよ、誰が貴方の命救ったかもう忘れたの?」


そう言えばそうだ。
俺が今こうして生きているのも全て彼のおかげ。
しかし彼は今から俺の血を吸い付くそうとしているのではないのか。
当然血が無くなれば俺は死ぬ。
でもその血を欲している吸血鬼に俺は命を救われた。

…正直訳がわからない。


「ねぇ、そんなに考えなくて良いよ…」

「!?」

「僕は何でかは分からないけど貴方を殺せなかったの。でも血が足りないから…」



貴方の血が、少しだけ、欲しいーーーーーー





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何だか好評な吸血鬼連載、続きを早くと言ってくださる方々の声を裏切るような遅さ、本当ゴメンなさい(泣)

やっとの思いでなんと第五話。
なんかもう妄想全開です…
やっと雲雀が吸血鬼と判明していよいよ吸血鬼連載っぽくなって来たかな…

次回は吸血シーン書きたい、です。






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