-Novel-

□色、
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この街に引っ越してきたのは、
ほんの二日前のことだ。

いわゆる転勤で新しい職場がこの街だった。
ごく普通のことで、
ごく普通の街だと思っていた。

1日目に来たときは、もう夜で引っ越し屋のトラックも夜きたので、
ちゃんとこの街の事など見ていなかった。と、いうか暗くて見えなかった。
街の探検などしてる暇がなかった。

家具や小物や食器や色々
ダンボールの山だった。


二日目は、そのダンボール箱を一つ一つ開けてとりあえず生活必需品を取り出してもくもくと片付けをしていた。
このままでは生活すら出来ない、部屋中が見渡す限りの、箱、はこ、ハコ、だ。

三日目の朝、
そろそろこの街をブラブラしてみようと外出を試みた。
日曜日だった。


そうだそうだ、お隣さんなどに挨拶をしなければ。これからお世話になるだろうし、なんて頭の中で考えてドアに歩み寄る。

ドアを開けて外へ出る

不意に眩しくて目をぎゅっとつむった

太陽に睨まれたように

瞼越しからも眩しさが伝わる
瞼の血管が見えるくらい眩しい

下を向きながらゆっくりゆっくり瞼を開ける

飛び込んで来たのは、














いや、
きっとまだ目が開けたばかりでしっかり見えてないだけだ

数秒もすればきっと目も慣れる

そんな事を考えていた

しかし数秒たっても
目の前に見えるものはやはり白。


なにが白か?

屋根が
家が
電柱が
コンクリートが、 だ。


最初はそういう、「狙い」
いわゆる、「デザイン」なのかと思い、

自分に言い聞かせた

しかし
アパートの白い階段を急ぎ足で下がって
しっかり白い手すりも掴んで

辺りをぐるりと見回した。

自転車

目の前の道路

電柱


全部真っ白なのだ


家の中には確かに色があった


ゾクッと背筋が凍りついた。


慌てて階段を駆け上がる
部屋のドアを思いっきり開ける


はっ



思わず目を剥き出しにして息を呑んだ。




色がない


いや


白い


そのままゆっくり自分の足を見る


靴が白い

足も白い


足?

僕は慌てて手を前に突き出した

白い


ドアの外も、家の中も


まるで、人間やものに真っ白いペンキをひっくり返した様に全身が白い、「顔」も白い絵の具で綺麗にムラなく塗ってあるような、髪も真っ白いカツラを被ったように・・・
なんというか、3Dアニメーションのような世界だ。真っ白の。
浮き上がってみえる立体の部分だけが頼りだ。


この「3Dのような世界」、空などなく、あっても白い。
通りかかった猫。
痩せ型で、鋭い目つきで、そして色は白。

足元にある石。
勿論真っ白。絵の具やペンキで塗られたかのように、白い。



夢か?

もしかしたら悪夢なのかもしれない


とりあえず夢であってほしい


怖くなって階段を駆けおりて

通りかかった青年に(スーツを着こなして、多分サラリーマンだろうと解釈し)話しかけた。

「あの
この街には色がないのですか?」


青年は、顔を顰めて低い声で言い放った。

「色?
色ならあるじゃないですか」


「え?」

間抜けな声が空気を掻いた。


「色でしょう?

私もあなたも色ならついてますよ。」


思わず息を止めて、
ゆっくり深呼吸した。

もう一度尋ねる。

「…何色ですか?」

ぽかん、と口を開けて青年は言う。



「だから、色ならついてますよ」


・・・話しにならない。


「でわ」

と言って青年は歩き去ってしまった。


ポツンと残された自分、


僕は無我夢中で自分をみたり車をみたり

それでもやっぱり白なのだ。


そこに、一人の少女が通りかかった。


「お兄さんボールとって」
と、可愛らしい声が聞こえてきた。


気が付くと足元にはボールがぶつかっていた

「あ、 あぁ、ボールだね」

これもまた、白い球体。


ボールを渡す際に


「ねぇ、お嬢ちゃん、
君は何色だい?」

きっと、僕の顔は引きつっていただろう。


え?と眉を寄せて聞き返してくる。
しかし少女はあっさりと答えた。


「色ならついてるわよ」


青年と、同じ答えだった。

今度は目線を合わせて聞いてみる。


「あの…でも何色?」

表情を変えることなく、少女はハッキリと言った。


「うーん、白かしら。
当たり前だけど。」


小さく笑う




頭が混乱してきた。

僕は独り言のように言い放った、
「誰に聞いても、白、なのか・・・」


すると少女は少しムッとして、さっきより大きな声で言った。


「だから!
白だって立派な色でしょう?」



返す言葉が見つからない。
その通りだ。
白も白色だ。


まるで、もともと白しかなかった世界のようだ。

少女は首をかしげながら話しはじめた。

「お兄さん、
この町初めてなのね
この街に来るとね、
みんなみんな白になるのよ。」

白い少女の白い唇がにこりと歪んだ。


そう
この街は白しかない。
他の色のことなど知らないかのように、白色の異世界に飛び込んできてしまったらしい。
ついこの前まで、当たり前のようにあった色は、此処に来て全てが「白色のみ」になったのだ。
やがては、僕も「白以外の他の色」を忘れてしまうのだろうか。


僕は苦笑した。






色、
(お兄さん、ボールで遊ぼうよ。)
(ねえ、お嬢ちゃん、「赤」って色、知ってるかい?)(赤?赤って赤ちゃん?そんな色、知らないわ!)




*あとがき*
パラレルワールドが書きたくなったんだ。
 

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