-Novel-

□破仮意-ハカイ-
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 何なんだ
 人ってなんだ
 なんて面倒なんだ
 生きていてそれがなんだ
 否、
 それ以前に

 僕って何だ。
 何者なんだ。



些細なことで、友人と喧嘩した。
仲間外れにした覚えは無いのに、相手は「仲間外れにされた」と解釈し、非常に悲しんでいた。
「ぼく」の無意識で友人を悲しませてしまった。
なんて最低な人間だ、何でこんなことになったんだか自分でも分らない。あの時ぼくがちゃんと誘っていればとか、ちゃんと友人の気持ちもわかってあげていればとか、襲ってくるのは罪悪感や後悔ばかり。

先生に叱られた。
宿題を忘れ、おまけに提出物を2つも忘れた。しかもその提出物すら何を出せばいいのか分っていない。
なんて馬鹿な人間だ、何でそんなことも出来ないのか、忘れてしまう頭が憎い。大人になっても、ずっとこんな調子なのだろうか。
襲ってくるのは、不安と自分の情けなさばかり。

親に怒られた。
食器を割ってしまったのだ。しかし、意図的なものでは無くて手がすべって持っていたコップと皿を落としてしまったのだ。
なんて出来損ないな人間だ、どうしてここまでドジなんだ。襲ってくるのは、「自分に対しての冷ややかな感情」ばかり。



ぼくは、何だ。
何をしても駄目ダメで、何をしたらいいか分らない。
何がいけないんだ、何処で何を間違えた。

頭ばかりがフル回転したまま、そっと目を閉じた。
ベットの中に包まっても、なんだか寒い。







***


眩しい、


苦しい、



「ぶふっ!?」

目をうっすら開けると、ぼくは水の中にいるような感覚に陥っていた。
前が泡だらけで視界がボヤボヤして、上手く周囲が見渡せないのだ。

ぼくは溺れている。
しかし溺れているのに苦しさは無くなっている。泡も少しづつ減ってきた。


そこで気がついたのは、ぼくは無意識に息を止めていたから苦しかったことに気がついた。
自分で自分の首を絞めるとはこのことなのだろうか。
よく考えれば此処には酸素があって、呼吸も出来るではないか。
冷静を取り戻したとき、泡は消えていた。


「誰か、いるの?」

そう、目の前には水中でプカプカ泳いでいる少年が居るのだ。
恐らく歳はぼくと変わらないくらいで、後ろを向いてぼくに背を向けている。

「ねぇ、誰か、


『誰かいるの?』

少年は言った。



ぼくは少年と目があった。

そこには、鎧のような大きな仮面を被った少年。さっきまで顔は見えなかったけど、まさかこんなものをつけていたなんて驚きだ。

「あの、君は、


『君は、誰なの?』

ぼくが言おうとした言葉を先に言われてしまった。
ぼくは質問に答えようとして口を開いた。

「ぼくは、ぼくは、誰だろう、、」
自分で言っておきながら、訳のわからない言葉が出てきた。


「ぼくは、何だろう、」


少年はそんな情けないぼくの姿を真面目にみつめていたが、少年も口を開いた。

『奇遇だね、ぼくもぼくが何かわからない。』

ぼくは少年の側に近づいた。


『でもね、僕、君を知ってる気がしてならないんだ。』

「ぼくも、ぼくも君を知ってる気がするんだ。」


『何か、悲しい顔してるね』
少年の鎧のような仮面の口だけが、動いた。
目は瞬きひとつしない。

ぼくは俯いて、
「そうなんだ。ぼく、何だか自分がわからない。」

『僕も、僕はね、何しても上手くいかなくっていつもドジばかりで親にも怒られるし、挙句の果てには友人まで傷つけてしまうダメな人間でね、困っているんだ』


ぼくは少年の言葉に食いついた。

「ぼくも同じ!」

少年の表情はとても悲しそうになった。
鎧のような仮面が形を変え、目は閉じてしまって眉はハの字に、口は下唇を噛み締めている形になっていった。

ぼくは慰めの言葉を考えて、言った。

「でも、そんなの人それぞれだしさ、きっとそれが「君らしさ」なんじゃないかな?だから落ち込まないで?」

ぼくの言葉に少年はこちらに顔を向けた。
『きみらしさ・・・僕らしさ・・・』

パキ、パキ

鎧のような仮面にヒビが入った。


『じゃあ、君が僕に言ったように君もその性格が「君らしさ」なんじゃないかな?』

「・・・ぼく、らしさ?」


パキ、
ヒビがまた1つ増えた。


「そっか、皆それぞれ違うもんね。人と違って当然さ!」


『違って当然?』
鎧のような仮面が形を変えた。驚いた表情になったのだ。

「そうそう!違って当然だよ、世界は広いし。」
ぼくは少年を慰める。


『そうだね、世界中どこを探しても、君は一人しかいないし、僕もひとりしか居ないもんね。』

ぼくは少年と話している内に、段々心が軽くなってきている事に気がついた。


『じゃあ、僕は僕のまま、これでいいのかな?いけないのかな?』


「良いに決まってるよ!君は君でいたいんだろう?それが、君なんだから!」


パキパキ、
ヒビが大きくなる。


『僕は僕で、君は君』

「そうだよ。きっと!このままで、いいんだ・・・きっと。」


『怒られようが、叱られようが、それが性格で「僕らしさ」、「君らしさ」同じ人間なんて気持ちが悪いもんね』

「うん!それでいいんだよ!」

『そうだよね、誰でも人生初めてだもんね、失敗だってするよね』

「うん、失敗して学んで、、、つぎに失敗しないように・・・」
ぼくは言いながら考えた。

そうか、僕は僕のままでよくて、それが「僕らしさ」で、失敗は悪いことじゃなくて、失敗して当たり前のときだってあるんだ。


『そうだね、それが「君」で「僕」なんだよ。』


『君は君のままじゃいけないの?』

ぼくは、何かに気がついた。

ぼくは、ぼくでいたい、と。



「ぼく、ぼくはぼくでいたいよ!」
「だって、これが「ぼく」なんだから!」


パキン、
鎧のような仮面が割れて、小さな破片が散った。


『君は、誰?』


「え?

ぼくは、僕だ!」


ミシミシミシ、
パリ、パキ、
パキン、、、、、


ヒビは少年の仮面を覆って、
鎧のような大きな仮面がヒビだらけになり、
大きな音を立てて割れて、散った。

そこに現れた顔は、




「君、僕と同じ顔してる・・・」



『僕は、僕でいいんだよ。』

まるで自分に言い聞かせるように、「ぼく」自身が自分に言い聞かせるように。


「そうだね、それでいいんだ。
  ぼくは何者でもなくって「ぼく」なんだ。」


たちまち泡が僕らを包み込む。

「うっ!?」

急に視界が泡だらけになって、苦しくなった。
泡に押し出されるように、元の世界に引き寄せられるように。


水中が泡で覆われて奇妙な音をたて、ぼくを水中から押し上げる。



少年は最後にこう言った。




『僕は君の心で、君は僕のカタチだから。』





ぼくは微笑んだ。
僕も微笑んでいた。











破仮意-ハカイ-
(意識の仮面を破って、)(ぼくの精神世界で学んだ)(ぼくの事)






*あとがき*
自分で破る何かってある。
僕=ぼくの心(精神)
ぼく=僕のカタチ(体)
多分、夢のようなものなんだとおもう。
ありのままの君でって言いたいんだきっと。

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