-Novel-
□そして缶の中に。
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最近、誰かが後ろにいる感覚が続く。
家に居ても学校にいても。
僕はいつも通り朝起きて、着替えていた。今年から大学生になった。
プルルルル…
家の電話が鳴り響く。
プルルルル…
僕は今1人暮らしで僕以外に人はいない。
プルルルル…ガチャ
朝から誰だよ、面倒だな…と倦怠感に襲われながらも徐に受話器をとった。
「はい、」
向こうの反応を待つと、受話器からは可愛らしい男の子の声がした。恐らく幼稚園くらいの。
「後は、君だけなんだ。」
男の子は言った。
僕は意味が分からなくて聞き返した。
「はぁ…?僕、だけ?」
プツッ…ツー、ツー、
電話はそこで切られた。
僕だけ?
あとは?
変なイタズラ電話だなと思い、僕は再び身支度を再開した。
顔を洗って目を開けて鏡をみると、そこには、
あとは きみ だけ なんだ 。
と、可愛らしい字体で歯磨き粉で綴られていた。
僕は気味が悪くなり、早めに家を出た。
すると、朝だからか人が見当たらない。僕は何だか心細くなったが気にせず歩き出した。
まただ、誰かにあとをつけられている感覚。
ピヨ、ピヨ、
「ん?」
今、小さい子供がよくはいているピヨピヨサンダルのような音が聞こえた気がした。
僕は気にせずまた歩き出した。
コツコツ、
ピヨピヨ、
コツコツ、
ピヨピヨ、
コツ、
ピヨ、
ドサッ…
僕は鞄を落としてしまった。
鞄の中身からノートがはみ出ている。
それを拾おうとしてしゃがみ、なんとなくノートめくると…
あと は きみ だけ なんだ。
と、平仮名でノートいっぱいに綴られているではないか。
僕は驚いて立ち上がった。
ピヨ、
人の気配がした。
ゆっくりと後ろを向く。手には冷や汗が滲んでいる。
するとそこには、
「おはよう、お兄さん。」
可愛らしい男の子が立っていた。
男の子は缶を持っていたのだ。小さな缶を大切そうに。
「おはよう、朝から元気だね。」
僕は安心して笑顔を作った。
男の子も笑顔になった。その時、周りの空気が変わった気がした。
男の子はニタリと笑って僕に缶を見せつけた。
「これね、ぼくの宝物なの!
中にはぼくだけの世界が詰まってるんだ!」
僕は缶を覗いた。
男の子は、口にした。
「あとはきみだけなんだ!」
「あ…そのセリフ…」
「ぼくの世界に来て!
みんなみんな、ぼくのモノになって!
ぼくのモノになるべきだ!」
突風が吹いた。
僕は凄い勢いで吸い込まれそうになる。必死に目をつむって抵抗する、が、
「みんな、この中だから安心してお兄さん。
ぼくのコレクションになってぼくだけの世界で遊ぶんだ!」
風は渦巻き、缶の中に吸い込まれる。
僕は、缶の中に入ってしまった。
男の子は満面の笑みを浮かべて缶の蓋を閉めた。
そして缶の中に。
(ぼくの世界へようこそ!)(みんな、缶の中に)
*あとがき*
缶の話。唐突作品*
どんな生活を送るやら。