-Novel-

□君とのナイショ
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裏切られた。
 信じていたのに、裏切られた。

だからつい、使ってしまったのだ。

使ってはいけない、

 魔法を。



私は魔女だ。

魔女が住む世界で生まれ、育った。


先ほども言ったように、私は魔女に裏切られて相手に「使ってはいけないある魔法」を使ってしまった。

その行為がバレて、私は罰を受ける羽目になってしまった。

その罰とは、「人間が住む世界で良い行いをすること。」
因みに期限は無いそうだ。


そして今に至る。
人間の住む世界に飛ばされて、公園のベンチに座って考え事をしている。
が、ずっとこの格好でいるのは流石にまずいと思い反射的に猫に化けた。
だって、黒い服に黒い靴、黒い尖がり帽子を被っていては「魔女です」と宣言しているようなものでしょう?

だから、まぁ化けた猫も真っ黒だったりする。目は赤い。これは生まれつきだからどうしようもないのだけれど。


猫になったは良いものの何をしたらいいかずーっと考えていたらいつの間にか夜が来てしまって、少々肌寒い。
キョロキョロと公園を見回すと、ダンボールがあるではないか。
私は迷わずその中に飛び込んで、丸くなって月を見上げた。

「あー、さっさと「良い行い」をして帰りたいわ。」

正直ダルイ。信じていた人に裏切られ、信じることを恐れるようになった挙句に人間の世界に飛ばされて、最悪の展開だ。
ブルーな気持ちを落ち着かせようと目を閉じ、私は夢の中に落ちていった。

明日こそ行動して、はやく帰ろう。と、心に誓って。



*******


「きゃー、かわいい!」

「抱っこしたいね!」

「やわらかーい!」



ん?


「こらこら、そんなに皆で触ったら猫ちゃん吃驚しちゃうでしょう?」



猫ちゃんびっくりしちゃう?
触ったら?


触られてるなんてそんなはず・・・


ガヤガヤと耳元で聴こえる会話に、機嫌を悪くしながらも目を開けるとそこには、
人、人、人、

と、いうか「子供たち」がたっくさんいる。

「に、にゃぁ・・・・」

私は驚いたのと、拍子抜けしたので非常に間抜けな声を発してしまった。

「わー、猫ちゃん鳴いた!」
「にゃーって、可愛い!」

「この猫ちゃんね、公園に捨てられていたみたいでね。可哀想で連れてきてしまったのよ。」と、若い人の声。
「そうでしたか、子供たちも喜んでますし暫く預かっていても問題ないでしょう。」と、おばあさんの声。

「園長先生有難う!」子供たちは口々に言う。


捨てられてた?預かる?園長先生?

・・・そ、そんなぁ!
あちゃー、この箱に猫の姿で入っていたのがいけなかったのね・・・。
確かにこれじゃあ「捨て猫」ね。
自業自得とはこのことだ。私の気分は一気に落ちた。
しかも此処はどうやら保育園らしい。

「なーまーえー、どーするの?せんせー」

「そうね、名前が必要ね。何にしたらいいかな?」


「わたし、にゃんにゃんがいーとおもうの!」

「ぼくそんなのいやだ!くろすけがいいとおもう!」

「えー、じゃあ、くろこちゃん!」

「・・・くろ、」

ワイワイと言い争いが続いた中、ひとりの男の子がポツリと言った。
先生がそれに気がついて微笑んだ。

「確かに黒い猫ちゃんだものね、「クロ」って可愛い名前だと思うな、先生。」

すると子供たちは瞳を輝かせて言った。

「よろしくね、クロ!」

「一緒に遊ぼうね!クロー!」

「はやくわたしのこと覚えてね、クロ!」

皆、口々に「クロ」と私を呼ぶようになったのだ。
本名とは随分と離れているのだが。

「にゃあ」
出てくるのは、この声のみ。まるで賛成を意味するかのように聴こえる、この「にゃあ」という鳴き声。憂鬱だ。


*****

保育園の人に拾われてから、最初の数日は引っ張りだこだった。たくさん振り回された。

二週間が経過した今は、大分興奮もおさまって猫の扱いが皆上手くなってきた。
まぁ、毎日抱っこや撫でられたりはするが受け入れるしか術がないのだ。

私はいつも、保育園の玄関の先生が買ってきてくれたクッションの上で園児達を眺めたり、ミルクを飲んだりと「完璧に猫ライフ」を送っている真っ最中だ。

そこで最近、とても気になる園児が居る。


「秀くん、今日も誰とも遊んでないわね。」

「そうみたいですね、早く最初の一歩を踏み出せたらいいのですが。」

先生と園長先生の声だ。
今は園長先生の膝の上に、私はポツンと座って会話を聞いている。

秀(しゅう)くん、そう、この名前の子のことが少々私も気になっているのだ。この子は、私に「クロ」と言う名前をいち早くつけた男の子だ。
なんだか、昔の私そっくりで。
早くお友達になって遊びたいのに、なかなか輪に入れなくていつもひとりぼっちなのだ。



「あ、クロ、」
園長先生は、驚いたように言った。

私は園長先生の膝から降りて、「秀くん」のいる砂場まで掛けた。


「にゃあー」

「あ、クロ。どうしたの?」

秀くんは手を止めて、私をみつめる。

「にゃー」

私は、沢山の子供たちが鬼ごっこをしている方をみつめた。

「・・・クロは、いいね。」

ポツンと、秀くんが言った。

私は視線を秀くんに戻して、ひと鳴きした。

「にゃーあ」

「だって、沢山お友達がいて、いつも沢山の人がまわりにいて。」

寂しそうな顔で、砂をいじる姿。
昔の私みたい。

「にゃー、にゃー」
私は秀くんに元気になって貰いたくて、擦り寄った。

「クロは、ぼくと遊んでくれるの?」

「にゃー!」


「あ!クロ!」
不意に声をかけられた。

「クロだー!いっしょにおにごっこしよーね!」

2、3人の子供たちが集まって私を抱き上げ、走り回る。

抱っこされたまま振り向けば、そこには寂しそうにこちらを見る秀くんの姿。
「にゃー・・・」
そんな顔、させるつもりは無かったんだ。


******


夕方、沢山のお母さんたちが子供を迎えに来る。

「クロ、ばいばい」

「クロ、また明日!」


みんな、私に挨拶をして帰る。

私はクションの上で丸くなりながら、その声を聞く。

「クロ、今日はありがとう。」

私は顔を上げた。
秀くんだ。
今日のこと、嬉しくおもってくれたんだ。

秀くんがお母さんと手をつないで帰る後姿をみつめながら、私は決心した。
秀くんを、友達の輪の中に入れてあげたい。
私が助けてあげよう、と。

******

翌日、いつものように園児を迎えた後
今この時間はお遊戯の時間だ。


私は、そっとクッションから離れて保育園から抜け出した。


「えいっ」

元の姿に戻って、もう一度魔法をかける。

そして保育園の秀くんの居る部屋に近づいて、覗く。
みんな絵を描いてる様子だ。

パチン、

私は指を鳴らした。
同時に秀くんの使っていた、赤いクレヨンが転がり、部屋のお庭が見えて出入りが出来る大きな窓をちょっとだけ開けた。

「あ、」
クレヨンを追いかけて、おおきな窓から秀くんが出てきた。


今の私の格好は、保育園の子供くらいの女の子の姿をしている。

窓の近くで、しゃがんで秀くんを待つ。


「クレヨン、クレヨン、あ、」

出ていた秀くんと目が合った。

「君、どうしたの?」
秀くんが言った。


私は立ち上がって、
「私といっしょに、あそぼうよ。」
と言った。

秀くんは、困った顔をして「で、でも、」とつぶやく。

「だいじょうぶ、ちょっとだけだから。」
私は微笑んだ。

「・・・うん、ちょっとだけね」
秀くんも微笑んだ。

「君は、ここの保育園の子なの?」
秀くんは質問してきた。
私は少し考えて、
「こ、このちかくの保育園にいつもはいるの」と、とっさに言い訳をした。

「そうなんだ、」
と意外とあっさり受け止めてもらえた。


手をつないで、砂場に行く。

砂で山を作りながら、私は口を開いた。

「わたし、お砂も好きだけど、鬼ごっこも好きなの!」

秀くんが反応した。
「ぼく、ぼくは・・・ぼくも。ほんとは鬼ごっこのほうが好きなんだ」

やっと、本音が聞けた。

「じゃあ、たくさんお友達いるんだね」
私はわざと違うことを言った。


「ううん、そんなことないよ」
秀くんが俯く。

「お友達、ほしくないの?」

「そんなことないよ、ほんとはみんなと鬼ごっこしたいし、たくさんお友達ほしい」


「じゃあ、お砂場にいないで入れてもらったら?」

私は続ける。

「・・・なかなか、いれてもらえないんだ。」


「自分から、言わなきゃ。」
私は秀くんをみつめて言った。

「自分から、いうの?」

「うん、ちゃんと、あいてに伝えないと、気持ちはつたわらないよ」


「つたえる、自分から・・・」


「秀くんなら、出来るよ!」
私はじれったくなって立ち上がった。

「なんで、ぼくのなまえ・・・」

しまった!私は口を押さえた。
あー!上手くいってたのに!

「そ、その、ほらお靴!」
私は秀くんの靴を指差した。
そこには名前が書かれていた。

「そっか、君のなまえは?」

私は焦る。
「わたし、は、ク、クミ!クミって言うの!」

「クミちゃん?」
秀くんは首をかしげた。

「う、ん クミよ」

「似てる、」

「え?」

「クロっていう猫がいてね、なんか名前似てるなって。
ぼく、クロのこと大好きなんだ。
いつも、ひとりぼっちのぼくのところまで来て、一緒にいてくれるの。」

秀くんは目を輝かせて、嬉しそうに楽しそうに話す。

私は胸が締め付けられる気分になった。
素直に嬉しかったのだ。

「・・・秀くん、がんばって!
わたしも、そのクロって猫も、きっと応援してるよ! たくさんのお友達とあそんでる秀くんをみせてあげて、クロを驚かせてあげよう!」
私は夢中で喋った。

「クミちゃん、 ありがとう。
ぼく、みんなに言ってみるよ。それでクロを驚かせるんだ!」

「うん!」

私は秀くんの手をとって、言った。
「ぜったい、大丈夫。
  ばいばい!」
そして秀くんから離れる。

と、

「クミちゃん!」

私は振り向いた。


「もしかして、もしかして、君、クロなの?」


私は驚いて目を見開いた。

「なんか、似てるんだ、なんとなくクロと居るときみたいだったの。
それに、そのちょっと赤い目もクロそっくりなんだ!」

秀くんの目は真剣だった。

私は、ほほえんだ。
「そうかも、ね」

何を暴露しているんだ私は!と、内心思ったが秀くんは言葉を続けた。

「ぼく、君がクロだって、

  信じてるからね! 」



信じてる、その言葉に息を詰まらせた。

こくり、私は頷いた。

「ぼく、ずっと信じてるから!
信じてれば、またきっとその姿で会える気がするから!」


こくり、私は涙した。

「ぼく、がんばるから!」

私は涙を拭って、走った。

***



「秀くん、何処に行ってたの?心配したのよ。」

「ごめんなさい、クロと会ってたの。」

「クロと?」

「あー!せんせー!クロがいなくなってる!」


皆が私を探す中、私は猫の姿で木の上で様子を伺っていた。信じることの大切さ、思い出せた気がして胸が暖かかった。
信じることに余計な思考はいらなくて、信じることはただ純粋に、「信じたい気持ち」を心に刻む。
それでいいんだ。たったそれだけのことだ。


ひらり、ひらり、


大きな白い羽が私の前に現れた。


「ん?」



 良き行いをした者よ
 帰還を許す。

と、羽に綴られていた。


「もう少しだけ、いることにする」
私は呟いた。


*****

「あ、秀くん、どうしたの?」

「あのさ、」

「なぁに?」

「ぼくも、鬼ごっこいれてほしいんだ」

「うん、いいよ。秀くんいつもお砂で遊んでたから、鬼ごっこ嫌いなのかとおもってた!」

「そうなの?」

「うん、いっしょに鬼ごっこしよう!」

「うん!」


ほら、出来るじゃないか。
私は秀くんが自分から声をかけて、輪の中に入り皆と遊んでる姿を見て、囁いた。



「私は、秀くんなら出来るって信じてたよ。」



ーーー

「秀くん?どうしたの急に。」

「今、今クロの声がした!」

「え?ほんと?」

「クロ、ぼく、出来たよ!」

その時の秀くんの笑顔は、誰よりも輝いてみえた。
私は嬉しくなって無意識に微笑み返した。






君とのナイショ
(大切なことを、分かり合えたね。)





*あとがき*
小さい子ネタがかきたかった。
魔女の話はまた書きたいな。

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