-Novel-

□ツイン
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嗚呼、いつからだっけ
飛べなくなったのは。


どこで失(な)くしたんだろうな。


何故消えたんだろう。


私の翼。



いや、正確にはあると言えばあるその翼。
私は何だったのかな。姿は人間、背中には「片方しか無い」羽がある。

正面から見て、左側に、ある羽。

不気味なことに、髪は白いの。
瞳は深みのある緑といったところかしら。


私は今、何もかもが分らない状態で森の中にある湖を眺めながらただ立っているだけ。

湖を覗き込めば、そこにうつしだされるのは私の姿。
鏡のように私をうつせば、一人しか居ない湖に「ふたり」いるような気分になって、何だか安心してさっきからこの行動を繰り返す。


「もうひとり、いるみたい。」

ぽつり、と呟けば森の中を飛び舞う鳥が鳴く。
木々の葉が風に撫でられて、心地よい音を生み出す。


「鳥は、いいわね。」

私は空を見上げて言う。

「だって、自由に飛びまわれるものね。今の私は、飛べない。」

だって、片方しかないんだもの。
そう言おうとして、やめた。


「風は、いいわね。そうやって素敵な音も生み出せて、人々を包み込めて。」

私は俯く。

「いつ、消えちゃったんだろう。」
消え入りそうな声で呟く。

「もう、飛べないのかな。」

私は顔を覆って、涙を堪えた。




「それは違うわ。」

私とは違う人の声がした。
顔を覆うのをやめて顔をあげ、後ろを見ればそこには、

私と同じような格好をしていて、同じような身長で、右側に羽を持った少女が立っていた。
彼女もまた、「片方」にしか羽はついていない。


私は押し寄せる感情を堪えて、言葉を詰まらせながら言った。

「あなた、天使なの?」

すると、少女はゆっくり微笑んで答える。

「そんなこと言ったら、あなたも天使に見えるわよ。」

少女の細く綺麗な白い髪が風に乗って靡く。
私の短い髪とは違って、長く綺麗な髪だ。


私は質問する。

「あなたも、羽が片方消えてしまったの?それって、どうしたら治るのかしら。私、自信が無いの。」

少女は私に歩み寄って言う。

「私の羽は、気がついたらなくなっていた。きっとあなたと一緒ね。でもね、いつかまた飛ぶ自信はあるわ。」


私は、下唇を噛み締めた。
少女は続ける。


「きっと、今あなたには「支え」が必要なのよ。ずっと、一人だったの?」
優しく問いかけられて、私は何故か酷く安心して堪えていた涙が溢れそうになった。

「わからない、でも、私、前は「一人」じゃなかった気がするの。
いつからか、一人になってて、何かが欠けたみたいに・・・」

喋りながら、鼻の奥がツンとして声が震える。

少女は私を優しく撫でながら言った。

「私も、一人になって初めて「孤独」を知ったの。それで、やっぱり「一人じゃ何も出来ない」って気がついたの。」


「なにも、できない?」


「何だか無力だなって思ったわ。でも、
「ひとり」じゃなくて「ふたり」なら、二人分の力があって、乗り越えられるんじゃないかなって思うの。」

「あなたは凄いわ。私はあなたみたいに前向きになれない・・・」

少女は少し顔を曇らせて言う。
「寂しい?」


私は小さく頷いた。


「私も寂しいの。なんだか、心に穴が開いたみたいに。あなたにも、私にも「支え」が必要みたいね。」


私は少女の瞳を見た。
絡まる視線。

なんだか、とっても暖かい。


「不思議ね、私、なんだかずっと昔にあなたと会ったことがある気がしてきたわ。」
私は少し、微笑んだ。


少女は口を開く。

「お互い、羽が片方しかないわね。」

「ええ、私、あなたと手を繋いだら飛べる気がするわ。」



「やっと、気がついた気がする。」

少女は意味深なことを口にした。


「え?」


「大丈夫、あなたはもう、一人じゃないわ。私も、一人じゃない。」

さぁ、と言って少女は私に手をさし伸ばす。


ぽろり、私の頬に涙がつたう。
少女の言葉に酷く安心した。

おどおどしく、私は少女の手を握る。

「あ、」

私はとっさに声を発す。


「私、この感覚、知ってる。
ずっと前から、知ってる。
でも、忘れかけてた・・・」

少女は強く私の手を握り返して、言う。

「失って、初めて気がついたわ。「一人」の寂しさと、「二人」の大切さ。」


ふわり、ふわり、
肩の力が抜けていく。


私は涙しながら言った。

「支えあえば、いいのね。そうすれば、こんなに暖かいのね。」


少女は頷いて、私を強く、強く抱きしめた。


私達はたちまち光に包まれた。


少女は私を抱きしめたまま、言葉を零した。



「おかえり。」

「やっと、戻ってきたのね」




そうか、私は「少女」の一部だったんだ。

私は少女の感情の一部だったのね。

そして、私達はかつて「ふたりでひとつ」だった。


バランスが崩れて、感情が崩れて、お互いがお互いを見失ってしまっていただけなのね。



だから、あなたも私が必要で、
私もあなたが必要だったのね。



少女は、左右の翼を大きく伸ばして、
空に向かって羽ばたいた。












ツイン
(あら、天使さん。やっと元に戻ったのね。)(これでようやく鳥さんと一緒に自由に飛べるわ。)







*あとがき*
心のバランス。
二人で1つの天使さんのお話。

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