多ジャンル小説置き場
□良い未来を……
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季節は秋。
丁度肌寒くなってくる時季だ。
この季節になると、風邪気味の奴が保健室に通う回数が増えてが少し面倒になる。
「星月先生……」
そして今日、この学園唯一の女子生徒がやってきた。
「なんだ、お前か。……どうした? 顔色が悪いぞ」
「ちょっと……熱っぽくて……」
申し訳なさそうに言う似伊。
こうやって遠慮がちなところがまた良くない。
「それじゃ、そこのベッドで寝てろ」
「……ありがとうございます。……すみません……」
「謝るな。お前以外にもたくさん来るからもう慣れた」
「でも……他にもたくさんいるから私が来るのは……」
「あー、とにかく寝ろ。これもな。ちゃんと計れよ」
そういってベッドに入ったのを見て、無理やり口に体温計を突っ込む。
「口は開くなよ。ちゃんと計れなくなるからな。それに、お前のうるさい言葉も聞こえなくなる」
「……!」
笑って言ってやると、似伊が睨んできた。
そんなあいつが可愛くて、頭の上にぽん、と手をのせる。
「早く寝ろ。計れたら記録しておく」
「…………」
似伊は小さく頭をふり、ベッドに寝転がる。
頭をなでてやると、「子供扱いしないでください」と言うように顔をしかめた。
それをまた笑ってやると、諦めたように目を閉じる。
しばらくして寝息が聞こえたころ、体温計が鳴る。
「……37℃……か」
微熱なだけだな。
とりあえずは安心だ。
「……しっかりいい夢見ろよ」
お前達には未来があるんだからな。
その"未来"を潰すな。
……そう祈りを込めて、俺は似伊の額にキスをした。
「……おやすみ」
(お前たちには選ぶべき未来がある)