年一 小説

□一年目、十二月二十四日
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あの不思議な世界に行ってから、もう四ヶ月がたった。
私はといえば、夏休みが終わっても変わらずに平凡な学校に通っている。
欠伸が出るほど退屈だと思ったのは、初めてかもしれない。
こんな退屈な授業より、魔法のことについて学びたかったな。
そう考えると、ほらまた、先生に怒られる。

あの日、買ってもらった梟の名前は三日悩んでようやく決められた。
##NAME3##。
お父さんもお母さんも喜んでくれたので、満足がいく。
しかし、こうして梟を飼ってみると大変なものね。
ご飯はネズミの死体だなんて。
最初は気持ちが悪かったけれど、割とすぐに慣れてしまう。
お母さんはまだ慣れないみたいだけどお父さんは「懐かしいな」と言いながら私の代わりにあげてくれたりする。
それに、ずっと籠の中に入れておくのは可哀想だからと出してやると、嬉しそうに飛び立つのはいいけど辺りが羽だらけになってしまう。
それでも最後には私の腕に止まって、嘴で私の頬を撫でるのが可愛くて堪らない。
毎日起こしてくれるし、大変だけど嬉しいことばかりだ。
もちろん、今日も##NAME3##の鳴き声で起きられた。
今日は特に特別な日だから、いつもより大きな声だった気がする。

「おはよう、##NAME3##。メリークリスマス」

私に答えるように##NAME3##はピィーと鳴いた。
今日は特別に多めにご飯を食べさせる。
首を傾げながらもご飯をぱくぱくと食べる様子を見て、部屋をそっと出る。
リビングへ降りるとまだ朝なのに部屋の中はクリスマスツリーやらリースやらで着飾っていた。
庭には、数日前から電飾のトナカイやサンタさんが居座っている。
うちの家族はこういうのが好きだから、私も毎年楽しめるのだけれど張り切りすぎだと思う。
目を擦りながら「おはよう」と言えば、朝食の用意をしているお母さんがにこりと笑って、私の頬にキスをする。
お母さんに返すと、クリスマスツリーに飾り付けをしているお父さんもこちらに来て「おはよう」と言いながら同じようにキス。

「メリー・クリスマス、メアリー。プレゼントは何がいいかな?」

お父さんが一番張り切っているんじゃないか、と思う程うきうきした声で言った。
去年までなら、欲しいものをすらすらと言っていたのだけれど、今年は悩んでしまう。
朝食の並ぶテーブルの前に腰掛けながら悩んでいると、お父さんが隣に座って私の顔を覗き込んだ。

「そんなに悩まなくてもいいんだよ、ほら、いつもみたいに」
「うーん……」
「ふふ、まだクリスマスは始まったばかりよ。夜までじっくり考えるといいわ」

お母さんがにこやかにサラダを置く。
お父さんはもどかしいようで私とお母さんの顔を交互に見たけれど渋々頷く。
本当は、決まっているんだけど。
お父さんとお母さんに言ったら困らせちゃう。
三人一緒に、手を合わせて朝食をとっていると、お母さんが突然思い出したように身を乗り出して私に問いかける。
今度はお母さんの方が目が輝いてるよ。

「そうだ! メアリーは、サンタさんにはお願いしたの?」

お母さんの方がサンタさんを待ち望んでいるかのようだ。
実を言えば、小学校に上がる前にはもうサンタさん離れをしていた。
「サンタさんはいないの?」と聞いてみるまでは半信半疑だったのだけど、お父さんとお母さんのあの絶望的な顔を見たときには"もう言ってはいけない"と思ったものだ。
私の方が罪悪感を抱く程だ。
でも、お父さんが魔法使いだと知ってからはまた信じ始めてもいたけれど。

「……サンタさん?」

昔のことを思い出しながらつぶやくと、お母さんとお父さんが首を傾げた。
そうだ、サンタさん。その手があったか。
食卓に並べられるマフィンやベーコンエッグなどに目もくれず、サラダを口に押し込むと席を立つ。

「もういらないの?」
「クリスマスなのに、体調が悪いんじゃないのかい?」
「……ううん、大丈夫。まだサンタさんへのお手紙書いてないから書いてくるね」

お皿をキッチンへ持っていこうとすると、お母さんが笑顔でそれを止めて「早く書いていらっしゃい」と部屋に流された。
嬉しそうなお母さんの隣でお父さんもにこやかに笑っていて少し罪悪感を抱く。
部屋に戻ると##NAME3##がピィピィと鳴いていて鳥籠の中を見ると綺麗にご飯は無くなっていた。
少しだけ出してあげようと、窓が閉まっているのを確認してから鳥籠を開ける。
途端に部屋を飛び回るけど、すぐに満足したのか机の端に止まって私を見つめた。
そしてインクの近くにあったペンを咥えると私の方を向く。
この子は天才かもしれない。

「ありがとう、##NAME3##」

頭を撫でてやると目を閉じて頭を押し付けてくる。
可愛くて堪らない。
そうだ、手紙を書かなくては。
真っ白な便箋を取り出して、躊躇することなくサラサラとインクを染み込ませていく。
満足いくままに書くと綺麗に折りたたんで、同じく真っ白な封筒に入れる。
唯一可愛くなるように、とクリスマスツリーの形をしたシールを貼って、表に"サンタさんへ"と記す。
裏には私の名前を書いて、完成。
いつも枕下に入れておけばいつの間にか無くなっているから、今回もそうしておこう。

ふう、と短くため息を零し手紙を一先ず机に置いて##NAME3##を構う。
##NAME3##は始めこそ頭をすりつけてきたけれど、指を近づけると顔を背けてしまう。
そして、体を傾けると手紙を咥えようとする。
破れては大変だと慌てて取り戻そうとするけれど、頑なに退こうとしない。
困ったものだと頭を捻ると、ふと夏の日のことを思い出す。
そういえばお父さんが"梟は手紙の配達もする"って言ってたなあ。
……だから、配達しようとしてるのかな。
でも、ここは魔法の世界じゃないからそういう習慣はついてないはずなんだけど。
お店でそう教育されてるのかな。

「……これは、配達しなくていいの。持って行ってくれるから」

##NAME3##が首を傾げて、大きな目をぱちぱちと瞬かせる。
その隙に手紙を奪い、引き出しに押し込むと残念そうに首をしょげさせた。
罪悪感があるけれど、本物のサンタさんに渡してしまったら大変だ。

「さ、もう少し待っててね。今日はクリスマスプレゼント買いに行くから。もちろん、あなたのも買ってくるからいい子にしててね」

##NAME3##を籠にそっと入れ、カキン、と鍵を閉めると下からお母さんとお父さんが呼ぶ声が聞こえた。
はーい、と大きめに返事をすると##NAME3##がバサバサと羽をばたつかせた。
びっくりしたのかな、と思い謝ると、もう一度お母さんの陽気な声が聞こえて急いで支度をする。
白いニット帽に赤チェックのワンピース、緑のタイツに靴も赤色。
適当にクリスマスカラーでまとめてショルダーバックを肩にかける。
換気のために少しだけ窓を開けたあと、##NAME3##に"いってきます"といって扉を締めた。







現実でのプレゼント、なににしようかな。







(部屋の中でカチャカチャと音がなっていたのを、私は知らない)

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