多ジャンル小説置き場

□漫画が恋人
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「好きです」と呟いたら「そーですか」と返ってきた。
これは、振られたと解釈してもおかしくない。
心は意外にもすっきりとしていて、それが何故なのかはすぐにわかった。
この人には、"漫画が全て"なのだと。

「新妻くん、さっき、雄二郎さんとすれ違ったよ。もう原稿終わったんだね」

飲み物や軽食になるようなものを買って、今や大人気作家の"新妻エイジ先生"のお部屋に入る。
昔から、新妻くんの描いた漫画を一番に読んでいたけどそれは今でもこの立場にいる以上は変わらない。
"お手伝い"として働いている私は急遽お使いを頼まれて、まだ時間も早いのでアシスタントさんは来ていないので私と新妻くんの二人だけだ。
原稿やらネームやらで敷き詰められている床を慎重に進みながら、机に向かってひたすらにペンを走らせている新妻くんに声をかける。
部屋には大音量で音楽が流れており、丁度私も好き音楽が流れたところだった。
といっても、ここにきて新妻くんがかけていたのを聞いてから好きになったのだけれど。

「にーづまくーん」
「聞こえてますけど」
「あ、ごめんね。ええっと、とりあえずお茶にお水にスポーツ飲料、おにぎりとかサンドウィッチ買ってきたんだけど……足りるかな?」

ガサガサと袋を探りながら聞くと、途端に音楽が鳴り止み椅子ごと新妻くんがこちらにきた。
私の前でぴたりと止まると、律儀にも立ち上がって袋を受け取る。
私と同じように袋の中を探ると、お水とサンドウィッチを二袋、おにぎりを三個持つとまた椅子に座ってデスクに戻る……というのがいつもなのだけど。
今日は、ぺったぺったとリビングに向かっていった。
初めて会ったときとはまた違った行動に戸惑いつつも、立ち尽くしているわけにはいかないので新妻くんに続く。
リビングの机に座るとさっそくそれらを開けて食べ、飲み始めた。
新妻くんの前に座り、その様子を見る。
いつもより量は少ないことが気になるけど、新妻くんでも疲れを感じるのかな。
相変わらず、ぼろぼろと零しながら食べる様子は子供らしさが溢れて可愛いけどもう二十歳も過ぎたしどうにかしないと、と思う。
それでも世話を焼いてしまうのはきっと彼ががんばっているからで。

「何をニヤニヤしてるんです?」
「え? ニヤニヤしてる?」
「はい、とっても」

ごっきゅん、と口に頬張ったものを飲み込み、気づくとそれらはなくなっていた。
新妻くんの鋭い瞳が刺さる。
うーん、これは言ってもいいものなのか。
まあ、言っても損はないと思うし、いいと思うんだけど。

「なんか、新妻くんって子供っぽくて可愛いなあと思って」
「子供っぽい?」

新妻くんは少しムッとする。
ありゃ、ちょっと怒らせちゃったかな?

「でもね、それが新妻くんらしくっていいなあって思うよ。少年心を忘れないまま、ずっと漫画を描いてるんだもん。そういう新妻くんが……」

「大好きなんだよ」そう言おうとして喉に詰まった。
別に、新妻くんのことだから変な意味で取られたりはしないと思うけど、告白をしてしまった身のために詰まってしまった。
案の定、新妻くんは私が言葉に詰まったのを見て腕を組んで首を傾げている。
その行動に対しても、「あれ?」と思うところはあった。
いつもなら、「どうしたんです?」とか、いつものように大袈裟にリアクションをして見せるのに。
今日は静かだ。
そう、そうだ。
今日は朝からずっと静かだった。
何かあったのかな?
そういえば、雄二郎さんも新妻くんの家から出て来たときからそわそわした様子だった。
私が声をかけると過敏に反応したし、二人しておかしい。
それに、普段なら新妻くんはもうすでに漫画にとりかかってる頃。
それなのに私とおしゃべりしている。
まさか、作品に何か不調があったんじゃ……。
いや、新妻くんの描いたものが良くないはずがない。
じゃあ、二人の妙な様子はなんなんだろう?

「……僕は、子供なんかじゃないです。まあ、少年心を持ってることは否定しませんけど。そのおかげで今もこうして連載を続けられるのですし」
「……あ、そうだよね。ごめんね」

私の一瞬の悩みは、彼の言葉で吹き飛んだ。
おかしなポーズで決めている新妻くんに、なぜか安心してしまう。
よかった、そうだよね。
連載が続いているし、ここ最近のランキングはずっと上位。
なにを心配することがあるの。
ええっと、それで、なんだっけ。
あ、少年心がってことかな。
やっぱりそこ気にしてたんだ。
嫌そうな顔したもんなあ。

「漫画に対しては子供心でいるつもりですケド、その他、例えば恋愛に関しては最近では色々考えてます」
「最近?」

遂に新妻くんにも好きな人ができたのかな。
私は振られた身だけど、できれば新妻くんのお手伝いをしたいな。
どんな人でも、私は、新妻くんを支えてくれる人なら。
……うん、でも程々にしなきゃね。
胸が痛い。心臓が痛い。
体中に力が入る。

「す、好きな人、いるの?」

思い切り噛んでしまったけれど勢いで通してみせる。
新妻くんはおかしなポーズからきちんと椅子に座り直し、私の顔を真剣に見る。
やっぱり気にするのはいけないことかな。
新妻くんの彼女でもないんだし、余計なこと、だよね。
しばらく見つめ返していたけれど、耐えられなくなって俯く。
そうすると、前方からぎしり、と何かが軋む音がして、顔を上げると視界いっぱいの新妻くんの顔。
どうやら私たちの間にあった机に乗り上げたようで、新妻くんがこちらに寄る度、ぎしぎしと軋んでいた。
視界いっぱいの彼の顔と、いつものおかしな行動に頭が回らずにいる。
なに、と問いかけようとしたら、新妻くんはまるで漫画を描く時のような素早さで互いの唇を重ねる。
がちり、と歯が当たったようで振動が伝わってきた。
私に痛みはやってこなかったものの、すぐに離れた新妻くんは唇をぺろぺろと舐めていて、彼の唇が切れたことを察する。
唇が切れたのは申し訳ないし、キスされたことへの驚き、それよりも何故キスされたのか、そして。
もしかして、もしかして、と焦る気持ち。

「あ、に、新妻、く」

うまく言葉が出てこない私は、餌を待っている魚のように口をぱくぱくと動かすだけ。
新妻くんは机の上で唇を一舐めすると、机に手をついて頭をさげた。
何本もさされた羽が落っこちそうになる。
そして勢い良く顔を上げて私の瞳を離さない。

「本当に、すみませんでした。少し気が焦っていたです」
「え、は、はい……?」
「でも、これでわかっていただけたはず! 少し失敗はしましたがほぼ成功のはずです!」
「え、ええっと……」

新妻くんが何を言っているのかわからない。
けど、彼は自信に満ち溢れた顔をしていて、まあいいかという気持ちにさせられた。
ふふ、と笑ってしまって、せめてもの質問に「何をわかってほしかったの?」と聞くと新妻くんはにやりとして答えた。






「子供じゃない、ってことです! シュピーン!」







(後日、詳しく聞くと新妻くんはあの時の告白をよく聞いてはいなかったようで、雄二郎さんにも相談してそれを謝りたかったと)
(そのお詫びと、返事という形だったらしい)

(雄二郎さーん、原稿とっくにできてますよー)
(ああ、さすが新妻くん……ってあれ? 唇どうしたの?)
(んー、これはちょっとした証明でして)
(なるほど、ね)





>>無理矢理な終わらせ<<

バクマン。読破しまして…!
エイジが好きですがキャラが把握しきれてません申し訳ないです。
でも一番好きなのは蒼樹さんと平丸さんです。可愛すぎ…。

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