多ジャンル小説置き場

□勘違い
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まただ。

また姫君はあいつを見てる。

俺はそんな姫君を見ていて、姫君は俺を見てはくれない。

どうしたら、俺を見てくれる……?


────────

「似伊」
「…ん、なーに? ヒノエくん」

俺が話しかけてるってのに、姫君は俺を見ようとはしない。
目線の先には、神子姫と、白龍。

なんであっちを見てるんだよ…。

とは思いつつ口には出さない。
何もないような振りをして似伊に話しかける。

「何を見てるんだい?」
「白龍」

あまりにもあっさりと言われて面食らう。
そんなに正直に言われても困るんだけど…。

「ヒノエくんも一緒に見る?」
「…野郎なんて見たくないよ。俺は姫君の綺麗な瞳が見たいな」

なんとなくそう告げてみるも、似伊は「そっか」と言ってこっちを向かない。

「あ、でもヒノエくんは神子様が好きなんだよね。だったらヒノエくんは神子様を見てればいいんじゃない?」
「…は?」

俺が、望美を?
いや、確かにそうだったけど。
今の俺の姫君は似伊な訳で……。
…俺、勘違いされてる?

「ほら、早く!」

細い腕にはさほど力はないけど、引っ張られると素直に座ってしまう。
微かに触れる似伊の髪はくすぐったくて、でも安心する。
今は隣にいられるだけでもいいか、なんて思ったり。

「神子様って強くて綺麗で…いいよねー」
「ああ、望美は花のようだよ」
「確かに! やっぱりヒノエくんはわかってるなぁ」

しまった。
また誤解を生むようなことを……。

「白龍も、大人になってからかっこよくなったよね。子供の頃も可愛かったけど…大人でも可愛さは残るね」
「………」
「…あっ、ごめんね。ヒノエくん男の人に興味…ないんだよね…」

しゅん、とうなだれる姿も可愛いと思ってしまうのは本気で惚れてしまってるからなのかもしれないな。
そんな姿も見ていたいけど、やっぱり楽しそうな姿が見たい。

「別にいいよ。似伊の話が…似伊の声が聞けるなら」
「またそんなこと言ってー。神子様に勘違いされるよ?」

現に望美じゃない好きな奴に誤解されてるけどね。

それからはお互いに黙っていて、意味もなく白龍に神子の世界の話を話す望美達を見ていた。
白龍は神子の話の間ごとに顔を輝かせる。
それが嬉しいのか望美は笑顔で白龍に話続けていた。
そんな和んだ様子に笑みがこぼれる。
隣でもクスリという笑い声がして似伊を見ると、優しい瞳で白龍達を見ていた。

それは、とても愛おしそうな瞳で。

一気に気分が沈んでしまう。
…そうだ。
似伊は…白龍が好きなんだよな…?
俺の気持ちなんか知らずに……。

「ヒノエくん?」

顔を下から覗き込まれる。
そんな無邪気な顔でさえも今は胸が苦しくて。
いっそのこと、この想いをぶつけてしまおうかと思った。

「…似伊はさ…、誰が好き?」
「誰って…皆大好きだよ」
「そうじゃなくてさ。異性として、って言えばわかる?」

小首をかしげて微笑むと似伊の顔は少しずつ赤くなっていった。
…いるんだ。
わかりやすいな、似伊は。

「えっ…あの…そのっ…」
「ねえ、教えてよ」
「い、嫌っ…い、言えないよ…!」

両手を顔の前でふる様子にいつもは笑う。
でも、今は違う。

「…俺は似伊が好きだよ」
「…え…?」
「似伊が一番、好きだ」

似伊の顔が呆ける。
だけど一瞬にして顔が赤くなった。

「えっ?! あれっ…み、神子様はっ…」
「似伊の勘違い」
「あ、あれー…? で、でも私っ…」
「知ってるよ」

口を開き、続きの言葉を言おうとする似伊の唇を人差し指で止める。
逆に口を開くと似伊の顔はきょとん、とする。

「白龍が好き、でしょ?」
「…へ…?」

頭にたくさん「?」を浮かべ似伊はわからない、という顔をしだした。
あれ…?

「な、なんで白龍…?」
「だって…白龍をいつも見てるだろ?」

その問いに答えた似伊の言葉に、今度は俺が驚く番だった。

「そ、そうだけど…。別に好きだからって訳じゃ…」
「…は…? だったらなんで……」
「白龍、いつも神子様にくっついていて可愛いな、って。神子様が動いたりするとその後をついていったり。あー…ぎゅってしたい!」

…似伊が白龍を好きじゃない…?
…なんだって?
じゃあ…俺……。

今わかった事実を知り、顔が赤くなりかけるのがわかる。
悟られないように髪をかくふりをして顔を隠す。
…俺も…勘違いしてたのか…っ

「ヒノエ…くん?」
「!」
「あ、あのね…」

顔を赤くしてつぶやく似伊の顔は、さっきとは違う意味で胸が苦しくなる。
安堵と、恋心。

「うん?」
「あのっ、あのねっ…さっきの…ヒノエくんの言葉…なんだけど…」

さっき…?
…あ、俺が似伊を好きだってことか…?

「す…すっごく嬉しかったよ! そ、そのっ、私もヒノエくんが好きだから!」

ぐぐっと顔が近づいける似伊の顔は精一杯って顔をしていて、更に真っ赤だった。
そして俺は似伊の言葉を頑張って思い出す。

「…似伊が俺を…?」
「そっ、そう!」
「…はあ…」

自信満々に言う似伊にため息をつくと似伊は頬を膨らませて怒鳴ってくる。

「あー…もうなんでもいいや。姫君が側にいてくれるなら」
「え……きゃっ?!」

どうしようもない嬉しさで思わず抱き締めてしまうと似伊はジタバタと暴れる。

「ひ、ヒノエくっ…?!」
「俺って馬鹿だね、似伊が好きで好きで、似伊の気持ちに気づかなかったなんてさ」
「な、なんで恥ずかしいことをそんなスラスラと言えるかな…っ」

耳まで赤い似伊の顔は見れば見る程愛しくて。
更に強く抱き締めてやると更に赤くなる。

「似伊」
「…?」



「花よりも綺麗なお前が、一番好きだよ。似伊」



(だ…だからずるいっ…!)
(反撃しないからだよ)
(で…できるわけないよ…!)
(なんでだい? 姫君)
(それは…っ、ヒノエくんが、好き、だから…!)
(よくできました)


(あれ…、あそこにいるのってヒノエくんと似伊?)
(本当だ…。神子? ヒノエはなぜ似伊に抱きついているの?)
(えっ?! えっと…す、好きだからじゃないかな…)
(『すき』なら抱きしめていいの? それなら私は神子を抱きしめるよ)
(い、いいよ! 白龍はいいの!)
(?)

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