多ジャンル小説置き場

□Spuare×Cross
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なぜ、彼は私なのだろう。
私は他の人を想っているのに。
彼を想っている子はいるのに。
なぜ、彼は……。

「似伊」
「…森田くん」

ニカッと笑顔でやってきた森田くん。
絵の画材を抱えていた私の腕から半分が消える。
森田くんが持ってくれたおかげだ。

「今日は何するんだ?」
「…学校の風景、描こうと思って…」
「へぇ、見ていい?」
「…ごめん」

『嫌』なんて言えず、私はそれだけ言う。
森田くんは黙ったままで、でも楽しそうだった。
腕と腕がくっつく位の距離で、同じ歩幅で歩く。
教室が目に入ったとき、森田くんから画材を受け取ろうと森田くんを見上げる。

「森田く……」
「ん?」

でも、言えなかった。
なんでそんなに優しく笑うの…?
私は森田くんを避けてるのに……。
どうして……。

「…あ、の…」
「言っておくけど。俺は見ていくつもりだから」

こうやって、いつも強引に。
私が嫌がっているのを見透かして、どんな時でも強引に話を進める。

「お願い、です…。私…集中したいんです…。だから…」
「無理」

そういって私の腕にあった画材を全て持つ。
スタスタと教室に入っていく森田くんを追いかけない訳にも行かず、大人しく付いていった。

「…あれ」

ガチャガチャッという音が静かな廊下に響く。
扉が一向に開かない。
扉の前に何かがひっかかっていると思ったけれど、明かりは消えている。
つまり、鍵が閉められてしまった……?

「…今日残ること言ってなかったの?」
「言った…けど…ちゃんと聞いてもらえなかった…かも…」
「はぁ…。いつもいつも声が小さいからこんなことになるんだよ。もうちょっと腹から声だせ!」

森田くんにこんな真面目なこと言われるなんて。
思ってもみなかった。

「とりあえず、画材だけ置くぞ」
「あ…えと…う、ん…」

私が頷くのを見ると、森田くんはガシャン、と乱暴に画材を廊下に置く。
ビクッと体を震わせると森田くんが近づいてきて、私の肩を掴んだ。

「も、森田くん……っ?」
「声が小さいって」
「だっ…て…」
「大切なこと位、大きい声で言えよ!」
「そんなことっ……」

掴まれた肩を振り払おうとするも無駄。
大切なことって…何よっ…!

「森田くんなんかにはわからないっ…!」
「何がだよ!」
「私がっ! 私が……」

どんなに苦労しているかなんて。
森田くんだって、苦労してるのに…。
私は何を言ってるんだろう…。

「…………」
「…何黙ってるんだよ。言ってみろよ」

黙り込む私に森田くんは言う。

「…わかんないよっ…なんで…? 私だって…皆と同じふうに…っ」

同じふうになりたい。
むしろ、森田くんになりたい。
皆の人気もので、明るい彼に。

…って、私はなんで森田くんにこんなことっ…

ぐしぐしと涙を拭いてうつむきながら口を開く。
森田くんは黙って私を見ていて少し気まずかった。

「森田くんは…言えるの…?」
「…言える」

思わず面食らった。
そんなこと簡単に言わないで。

「そ…う…」
「例えば、俺が誰を好きかとか」

やだ。
なんで、今?

「そ、んなこと…言えないでしょっ…?」
「言えるから言ってる。俺の好きな奴は」
「やめてっ!」

森田くんの言葉を遮って、大きな声を出す。
久々に聞いた、自分の大きな声。

「やめて…ください…っ」

耳を塞ぐ。
そのまましゃがみこんで廊下に座り込む。
森田くんの力は抜けて、泣きじゃくる私を見下ろす。

「…っく…ひっく…」
「…大きい声、だせたな」
「……っ」

私の前にしゃがみ、頭をなでる森田くん。
ふと顔をあげると両手で私の顔を包み、涙を拭う。

そんなに優しくしないで。
笑わないで…。

「言い直す。俺が好きな奴は、前からお前、似伊だ」

そんなの…わかってた…っ
でも、なんで今なの…?
やめてよ…言って欲しくなかったよ…っ

そう思ってまた泣くと、森田くんが私を抱き締める。
暖かい手で、しっかりと。

「似伊が、竹本を好きなんてわかってる。けど、俺は諦めるつもりなんてない」
「やだ…っ、やだよぉっ…」
「うん」
「なんで…森田くんは私なの…? なんではぐみちゃんじゃなくて…私なのよ…っ、私は…森田くんを好きになれないんだよ…? 竹本くんが好きってわかってるのに…っ! なんで…なんで…っ
なんで私なの……?」
「…うん」

森田くんはその一言だけ。
後は私をキツくキツく抱きしめて、私の髪に顔を埋めさせて黙っていた。
それから数分経ったあと、未だに涙が止まらない私に森田くんがそのまま口を開いた。

「…なんで、なんて言うな。俺は似伊を好きになった。それだけなんだから。…真山みたいなこと言うなよ」
「うん……っ」
「それから、好きになれないなんて言わせない。まだわかんないだろ?」
「…う…ん…っ」

森田くんはただ私を抱きしめるだけだった。
頭を撫でたりもしてくれた。
『大丈夫』と何回も言ってくれた。
暖かい、のに悲しい。
苦しい。

「…森、田くん…。もう…大丈夫だから…。ありがとう…」
「…………」
「……? 森田くん…?」

少しだけ恥ずかしくなって森田くんから離れると、森田くんはだんまり。
顔を覗き込むと、突然笑いだした。

「な…なに…?」
「…いや、昔のあいつ思い出して」

あいつ…?
…あ…はぐみちゃん…。

「あいつもお前みたいに話さなくてさ。でもすげぇ才能なんだよ」
「…私に才能がないって…いいたいの?」
「違う違う」

そういってまた抱きしめられる。
だけど、私に才能がないのは事実なんだよ。
先生が言ってたもん。
私は、はぐみちゃんとは違って自分の興味のあるものしか作らないんだね、って。
つまり、自分の興味のないものを作らないなら、才能はないって言われてるじゃない。
おかげで皆からも色々言われて。
でも私は、竹本くんがいるからここにいられた。
なのに…急に森田くんが現れて…。

「俺は、似伊の作品が好き」

びっくりして声をあげそうになる。
急に強く抱きしめられて声はだせなくなってしまった。

「生き生きしてて、自由気ままで、あいつとは違う才能がある。すごくワクワクして、それが抑えられなくて似伊に会いにいった。そしたら真剣に楽しんで作品を作るお前がいたんだ」

ぎゅっと抱きしめたまま、森田くんは話す。
表情は見えないけど、多分…笑顔。

「それがすっごい綺麗で、声かけるのも忘れてただ見てた。でもすぐにお前は気づいてさ、慌てる姿がさっきと同じやつに見えなくて面白かった」
「…馬鹿にしてる?」
「大真面目です。で、段々付きまとって、好きになっていった」

間を省きすぎなような……。

「似伊が竹本を好きって分かって、竹本はあいつを好きだと分かって…そいつが竹本を友達意識と見てるって分かった時、俺はお前の心配してた。…お前はどうだった?」
「……私は……苦しかった……」

なんで皆、気持ちが交差してしまうのだろうと。
いっそ、気持ちをリセットしようかと。
何回も何回も思って、涙が出た。
人生上手くいかないって本当だって体感させられた。

「皆、皆……どうして……」

森田くんはまた黙ってた。
何も言えない、じゃなくて、何も言わないように。

「竹本くんもはぐみちゃんも……森田さんも……なんで皆、すれ違っちゃうの……」
「うん」
「皆、仲がいいのに、苦しいのに……! 竹本くん、だって……!」
「うん」
「はぐみちゃんも、気持ちわかってるんでしょ……? 竹本くんも、皆……」
「うん」
「だったらいっそ……っ!」

私が壊したい、それを言おうと思った。
だけど声が出ない。
抱きしめられたんじゃない。
手でおさえられたんじゃない。
ただ、森田くんの顔が近い。

「壊せばいい。そんときは、俺も協力するからな!」

そう言って笑う森田くんの顔は、すごく楽しそうだった。
涙を浮かべながら私は思う。
あの時の、同じような笑顔を。


『ひゃっ…だ、誰…ですか…っ』
『あ、バレちゃった☆ 一つ言いたいことがあって来たんだけど』
『…?』
『あんたの作品、すっごい綺麗だった。今も楽しそうだし。いい画家になるな』
『え…。あ、ありがとう…ございます…』
『おう。あんた、名前は?』
『えと、似伊…』
『そっか、似伊! 俺は森田忍。大学在学七年目☆』
『な、ななな…?!』
『だから普通に森田くん、でいいから。これからよろしくな!』
『え、あ……』


あの時の笑顔が眩しくて、私はただ頷いた。
今でも変わらない。
私が他の人を好きと知っても、避けられても。
だからなのかな…?
こんなに、悲しいのは。

「似伊、泣きすぎ」
「う、ん……っ」
「俺、本当にあきらめないから」
「………っ」
「…そこはなんか言ってくれ」

森田くんは笑う。
明るすぎる声で。

私と森田くんは泣く。
辛くて。

この運命は壊れるのか?
それはまだ神様しか知らない。
ポンポンと背中をたたく森田くんに私は一つだけ思った。



私が、この関係を崩すかも知れないと。



(…もし私が、森田くんを好きになったら、はぐみちゃんはどうするんだろう)
(泣くのだろうか、笑って『おめでとう』というのだろうか)
(どっちにしても、あんまりしゃべったことのないあの子を傷つけたくないなんて)
(私の気持ちは矛盾している)


───────


はぐちゃん→森田さん
 ↑      ↓
竹本くん ←ヒロイン

という四角関係を書きたかっただけです←

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