短編【HP】

□君の幸せを
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いつも僕を見つめる視線。
それは、自意識過剰なんかではなくて。
彼女が僕を見つめる。
だけど、気づかないふりをしてエヴァンズを見つめる。

彼女を傷つける……それの繰り返し。

それでもなんとか僕と話す彼女はすごいと思うんだ。
だって、僕とエヴァンズを引き合わせようとしながら自分が苦しんでるのだから。

どうしてなんだろう?


「……ジェームズ、一応は成績いいんだから」


そんな言葉が聞こえて顔をあげると、エヴァンズと並んで歩く彼女――ノエルがいた。

ぐっと拳を握りしめて彼女達に近づき、ノエルの肩を組む。


「誰が一応、だっていうんだい?」

「ちょっと、いきなり現れないでくれる? ポッター」


エヴァンズが反抗するものだからいつものように答えていても、ノエルがうつ向いているのが嫌でも分かる。

……ごめんね。
本当はつらいよね。
こんな風にしか拒絶できない僕を許してほしい。


「あなたといると恥ずかしいのよ。ノエル、私先に行くわね」

「えっ」


ノエルが慌ててエヴァンズを見る。
エヴァンズはノエルに微笑み、スタスタと歩いていってしまった。
ノエルから離れ、エヴァンズの方へ駆け寄る。


「ああ、待ってよ! 僕のエヴァンズ!」

「誰があなたなんかの! 着いてこないで!」


いつものようにエヴァンズに言われて足を止める。
……ここなら、彼女の声も聞きづらい。


「またフラれたね。ジェームズ」


彼女は立ち止まったまま僕の背中に話しかける。


「いいんだよ。嫌よ嫌よも好きのうちって……言うんだろう?」

「いや、私に聞かれても」


ノエルの困ったような笑い。
君は、本当に馬鹿だね。
どうしようもない。


「……ジェームズは本当にリリーが好きなんだね」

「当たり前じゃないか。僕の運命の人だよ」


ノエルの方は絶対に向かない。
振り向いてしまったら、きっと僕は君を抱き締めてしまうよ。
罪悪感と、苦しさで。

ああ、ここにエヴァンズが来てくれれば。
僕に話しかけてくれるのがエヴァンズであれば。
そんな風に思う自分がひどくおかしかった。


「……私がジェームズを好きって言ったら……困るよね?」


どうしてなのだろう。
こんなに離れているのに、君の声がはっきり聞こえる。
でも"聞いてはいけない"。

僕はゆっくりと振り向いて――


「何か言った? ごめん、聞こえなくて」


作り笑いを浮かべるんだ。
ノエルと同じ、作り笑いを。
振り返らないと決めたのに。

僕の側にいるのはいつだって君だったよね。

だけど、ごめんね。
僕はエヴァンズを選んでしまうんだ。


「……何でもないよ」


彼女の悲しいつぶやきは……





静けさに飲み込まれた。





(拒絶なんてしたくはないんだ)

(でも、しなくてはいけない)

(君のためにも……僕自身のためにも)

(僕は、君の想いには答えられないけれど)

(君の想いは届いたよ)

(だから――僕は願う)


(どうか君が世界で一番幸せになれますように)

 

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