短編【HP】

□満月は想いを告げる
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「満月なんて無くなっちゃえばいいのにね」


隣で彼女がつぶやいた。
握る手に力が込められる。


「どうして?」

「だって、リーマスが苦しむから」


もう片方の手が月へと伸びる。
今日の月は、満月の1日前。
体調が絶好調ではない私をお見舞いに来てくれたノエルが月へと吸い込まれるようだった。


「駄目だよ。ノエル」

「なんでよ、リーマス」


彼女の手を制すとノエルは少し不機嫌そうに言った。
そんな彼女の額に口づけを落とす。


「だって、月が無くなれば夜に君の顔が見られなくなるだろう? そんなの、私は嫌だよ」


こつ、と額を合わせればノエルはむっとする。
手をぎゅうっと強く握られる。


「でも、満月の日はリーマスといられないじゃない。綺麗な満月をリーマスと見たい」


子供のようにふてくされる彼女が可愛かった。
こんなに想われて幸せだな、と自惚れしてみたり。


「ノエルは矛盾したことを言うね。満月がなくなればそれすら一緒に見られなくなるよ。
 それから、君の好きな満月を僕のせいで無くしたくないよ」

「……でも……私は、リーマスが苦しむ方がイヤ……」


気持ちは嬉しいよ、とキスをするとノエルは頬をわずかに染めて私の胸に飛び込んできた。
段々と力を込められる。


「なんでリーマスが苦しまなきゃいけないの……」

「そういう運命なんだ」

「そんな運命じゃなければいいのに」

「でも、そうじゃないと私はここにいなかったかもしれないよ?」

「……そう、だけど……」


ノエルの頭を優しく撫でる。
彼女は顔を上げて頬を膨らませた。


「リーマス、好き、大好き……愛してる」

「どうしたんだい、急に」

「今言っておかないといけないと思って……。明日、私のことを思い出してくれるように」


明日は満月。
私が人狼になる日。


「……いつでもノエルを想っているよ」





満月があって良かったと、初めて思えた。





(満月は罪だ)

(けれど、そのおかげで彼女をいつでも想っていられた)

(感謝は……満月と彼女にしよう)

 

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