多ジャンル小説置き場

□もやもやする
1ページ/1ページ


家のチャイムが鳴る。
お母さんが出るだろうとベッドで寝転がっていると、もう一度チャイムが鳴る。
お母さんいないのかな?
そう思うと同時に、そういえばお父さんの会社へ忘れ物を届けにいったんだ、と思い出す。
ぼんやりと考えると、苛立ったような三回目のチャイムが聞こえる。
出なきゃ駄目かぁ……。

「はーい」

階段を降りて返事をする。
ドアの向こうからは小さな舌打ちが聞こえた。
宅配の人とかではなさそうだ。

「どちら様ですか?」
「俺」
「は……」

俺? 俺って何!?
電話越しじゃないオレオレ詐欺ですか。
新しいね!
でも、俺っていう分には知り合いなんだろう。
でも声とか聞いたことないし。
そうなるとお母さんの知り合いかな?
私とお母さん、結構声が似てるって言われるから間違われたのかも。

「あの、すみません。お母さん今いないんですけ、ど……?」
「相変わらず遅ぇな。何回チャイム鳴らさせる気だよ」

玄関を開けると、学生っぽい男の子が立っていた。
苛立っている様子で、まさかこんな男の子だと思っていなかった私はぽかんと口をあける。
男の子は半開きのドアを片手であけると、私を素通りして勝手に家にあがる。

「えっ、あ、あのっ、お母さんの知り合いですか?」
「……やっぱり覚えてるわけないか」
「……?」

さっきから会話が噛み合わない。
お母さんの知り合いでもないみたいだ。
覚えてるわけない、って……従兄弟かなにか?
いや、従兄弟も結構あってるし……。
……誰だろ。

「別にいいんだけど。まずは……自己紹介、か。めんどくさ」
「はぁ……」
「……西丈一郎。お前の名前は知ってるから別にいい」
「な、なんで知って……」
「ストーカー、とかあんな奴らとは違うから。勘違いすんなよ。ただ、いつか会ったことがあるだけ」

……よく、分からない。
向こうは私を知ってて、私は向こうを知らないなんて、不思議。
しかも、もっと不思議なことに、彼が勝手に家に入ったことも、こうして自己紹介をされた時も、不審に思わなかった。
彼の顔が整っている、とかそういうことじゃなくて……なんていえばいいか分からないけれど。
もやもやする。

「じゃ、また来る」
「は……えぇっ!?」

彼は腰を上げて私の横を通りすぎる。
来る、って本当なのかと問おうとすると、西くんといった彼はこちらを振り向いて、少しだけ笑みを浮かべて言った。






「またな、似伊」






(本当に名前知ってたんだ……)
(マジで覚えてねーのかよ。……めんどくせー……)

(次の日から毎日来るなんて思ってなかった)



安定の西くんの片想い←
思い付くのがいつも西くんが片想いする話なんですよ……!←

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ