多ジャンル小説置き場

□愛し、傷つけ
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「キッド……」
「あなたを奪ってしまいたいです。いつも、いつもそう思っています」

窓から伸ばされるキッドの熱が真っ白な手袋越しに伝わる。
頬に触れるその熱は切なくて。
何と言おうか戸惑っているとキッドは微笑んだ。

「いいんです、あなたにはもう……別の大切な人がいるんですよね?」

キッドの言葉は私の心の的のど真ん中を突き抜けた。
顔か赤くなっていくのが分かる。
でも、恥ずかしさだけはすぐに引いていって。
服の裾をギュッと握りしめた。

「でも、絶対に叶わない、から」

恋のライバルが幼なじみなんて、敵うはずがない。
一緒に過ごした時間は遥かに長いし、想い想われている時間だって違いすぎる。
絶対に叶わない、のに。
胸がズキズキと痛む。
次第に痛みがなくなると感じたときには、体が温かくて。
真っ白な体に包まれていた。

「悲しむあなたも素敵ですが、私はあまり好みませんよ。……あなたが笑顔になるためなら、最高の"マジック"を見せてさしあげましょう」

マジック……?
そう呟こうとしたとき、白い煙が部屋中に立ち込めた。
若干吸い込んでしまって咳き込んでいるうちに、煙が消えていく。
まだ少し咳き込んでいた体がぴたりと止まる。
煙の向こうにはまさに私の想い人――。

「新、一……」

瞬時に感じたのは"新一"。
けれど、さっきのキッドの言葉を思い出す。

――マジック。

相変わらず夢がないなあ、私。

「まあ、変装なのですが」
「……ふふっ、ありがとう。キッド」

キッドは優しい。
優しいからこそこうやって傷つかせる。
……そして、傷つく。

「キッドは本当に優しいのね」
「……そんなことありませんよ。ただあなたを喜ばせたいだけです。
 それに、私は怪盗なのですから」

怪盗。
ついついその事実を忘れてしまう。
目の前にいる"新一"ということを除いても、普段こうして話す彼は怪盗には見会わない気がしていた。
そんな怪盗さんに精一杯の気持ちを伝えようと顔をあげる。

「……ありがとう。誰がなんと言ってもあなたは優しいわ。……大好きです」

自然と出た言葉は、キッドに向けて言ったのか……それとも"新一"に向けて言ったのか。本人でも定かではない。
けれどキッドは微笑んでまた私を抱き締めた。






「愛してる、似伊」






(あなたが幸せになるなら)

(傷つけてごめんなさい)

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