多ジャンル小説置き場

□短冊に込めた想い
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星が輝く。
屯所の庭には大きな笹がある。
たった1日のためだけに。
数メートル先にいる屯所の奴らはそれに群がり、青やピンク、黄色などの細長い紙に願い事を書いている。

……そう、明日は七夕。
そして、その次の日は俺の誕生日。


「沖田さん、沖田さん。短冊書かないんですか?」


短冊が入った箱を二箱抱えた女……似伊が俺に聞いてきた。
ちらりと後ろを見て「皆さん書いてますよ」と付け足す。


「俺はいいんでさァ。あんなのに頼らなくても自分でやれやすから」

「でも……近藤さんも心配されていましたよ。願掛けでもいいじゃないですか」


俺の隣に座り、箱を膝に置く。
近藤さんもこういうの好きだから仕方ねェや。
だけど、この日になるとその瞬間だけ俺の誕生日を忘れられるから気に入らねェ。


「俺は七夕ってのが嫌いなんでね」


皮肉をこめて言えば似伊は考え込む。
何が嫌いなのか、とかなんとかぶつぶつと呟いている。


「……七夕って楽しいじゃないですか」

「俺が嫌いなだけでィ。短冊無理やり渡すな」


俺の膝にそっと置いたピンク色の短冊を箱に戻す。
似伊はむすっとした顔で箱の中の短冊を見つめる。
ため息をついてみせれば似伊は俺を見て声をあげる。


「ため息はついちゃだめです! 楽しみが減りますよっ」

「別に……」

「明日だって楽しみがあるのに」


似伊の言葉に思わず横を向く。
似伊はキラキラと輝く星を仰ぎ見ていて、似伊さえも輝いていた。


「な……お前っ……」

「明日は沖田さんの誕生日でしょう? 沖田さんが主役なんですから楽しまないと」


にこりと笑う似伊に思わず姉上を重ねる。
いつも真っ先に祝ってくれた姉上を。
泣きたくなるのを堪え、立ち上がる。


「沖田さ……?」


不思議そうな顔をする似伊の膝にある短冊を手に取ると似伊は驚いたように顔を向けた。


「……仕方ねェから書いてやりやす。ただし、文句はなしですぜィ?」


顔を輝かせて、似伊は笑う。


「はいっ!」


俺の願い事は一つ。
サラサラとそれを書き、笹にくくりつけに行く。
後ろから似伊がついてきて何を書いたのか聞いてきたけど答えなかった。


「笹に付けたあと見てみなせェ」

「……?」


似伊は短冊の入った箱を抱えたまま、首を傾げて俺が短冊をくくりつけたのを見ていた。
すっと俺が退くと、すぐに短冊の前に立った。
即座にバサバサと箱を落とす。
近藤さんや山崎が大騒ぎしているなか、似伊は赤い顔で俺を見て。
ニヤリと笑ってやると更に顔を赤くさせた。

俺の願い事は――





――似伊が明日、俺の想いに気がつきますように。





(その次の日、俺は最高のプレゼントをもらった)

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