多ジャンル小説置き場
□ときめきを抑えて
1ページ/1ページ
「恋人になりたくなった方が負けね」
突如言われたセリフ。
思わず「は?」と口を開けてしまう。
誰と、誰が、恋人になりたいと?
だが奴はニコニコと笑って続けた。
「恋人になりたいって思ったらその時点で負け。相手の言いなりにならなきゃいけないゲーム。よし、これでルールは完璧だよね、じゃあスタート!」
「ちょ、は? え、誰と誰が」
「だから、俺と、似伊」
「意味がわかりませーん。静雄先生、臨也くんがおかしくなりましたー」
「安心しろ、そいつは元々イカれてやがる」
静雄くん素敵。
やっぱり恋人にするなら静雄くんだよね!
「それは酷いよ、シズちゃん。俺よりイカれてる奴がいるだろう?」
「新羅の方がマシだ」
「マシだ」
「似伊、繰り返さなくていいからね」
ガシッと肩を掴まれた。
うわ最悪、と振り切ってもニコニコする気にくわない男子。
その嘘くさい笑顔大嫌い!
「臨也の嘘つき!」
「いきなり何? 人は誰しも嘘をつく生き物だよ。どんなに心が清らかな人でも相手を思う優しい嘘をつくものなんだ、まあそれは逆に辛くなる嘘になるときもあるんだけどさ」
「臨也の話長い、うざい、うざや!」
「もっと言ってやれ」
静雄の許可をもらったので、女の子をたぶらかす悪魔、うざや、性格悪いイケメン、うざや、と次々と悪口を言うと顎を掴まれて顔を近づけられた。
顔は笑ってたけど怒ってるような意地悪なような顔で逆に怖かった。
叫びそうになったところを静雄が臨也を引き離してくれたのでなんとか静まる。
でも私の目の前で臨也を殴ろうとするのは怖かったです。
「もうすぐ放課終わるから戻るけど、ゲームは続けてね。多分俺が勝つと思うけど」
「うるさい、早く戻って、静雄とゆっくりしたい」
最後の本音だね、と爽やかに笑って去っていく臨也が憎たらしくて仕方がなかった。
おかげで授業中にイライラしてシャーペンの芯を折っては更にイライラし、お昼ご飯もお弁当に加えて購買のパンも食べてしまった。
太ったら臨也のせいなんだから!
しかも、しかもしかもしかも……!
「いつ予定が空いてる? ……空いてない? おかしいなあ、似伊は今月何もないはずなのに。え、なんで知ってるかって? 俺の情報網を舐めちゃだめだよ」
とか毎日言ってくる。
折原うざやは本当にうざやです。
毎日毎日必死に耐えた私もさすがに扱いを覚えてきた。
そして二週間が過ぎようとしたある日の放課後――
「似伊、どう? 今度カフェ行かない?」
「無理。静雄と約束あるから」
「いつだって言ってないでしょ。じゃあ今日は一緒に帰ろうか」
「無理。新羅の家行くから」
「奇遇だね、俺も新羅に用があるんだ」
「私、セルティとドライブに行くんだけど」
「俺も行くよ」
「縄に繋がれて引きずられるならいいよ」
いつも以上にまとわりついてくるのがイライラした。
久々にこんなにイライラする。
というかまとわりついてくる時点で臨也の方が負けじゃない? ねえ。
「似伊が言うなら……それでもいいかな」
「……は?」
「俺は似伊の言うことを聞くときだってあるんだから」
「えっ……」
なに、一瞬いい人って思っちゃった。
臨也そんなキャラじゃないよね、もしかして私をはめようと……?!
それとも何か危ない人なの?
臨也っていじめっ子かと思ってたのに……!
「変な想像しないでくれる? とにかく一緒に帰ろう。行くよ」
「は、ちょ……っ」
手、繋いでますけど……!
これはおかしいよ? おかしい。
嫌なはずなのに……!
胸のトキメキが止まらない。
(さーて、俺おすすめのカフェに行こうか)
(新羅の家に行くって言ってるんですけど)
.