多ジャンル小説置き場
□七夕の日のみの再開
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未だに会えないあのヒト。
違う学校といっても、毎日あのヒトの学校には通ってる。
けれど、会えない。
唯一……といってもほんの少しだけど、連絡方法はクロームちゃんで、私の話とあのヒトの話をよくしてくれる。
クロームちゃんなりの気遣いなんだろうな、と思うとつい頬が緩んじゃう。
「今日もありがとう、クロームちゃん。また……骸から連絡があったら教えてね」
「……うん。また……」
クロームちゃんが小さく手を振ってくれる。
振り替えし、すぐに背中を向ける。
まだ、か……。
いつもの骸の言葉。
"今はまだ会えません"
"もう少しですから、信じていてください"
この二つ。
まだって何がなんだろう……?
骸はいつになったら会えるの……?
家に帰ってもいつもこれ。
こんな風に考える自分に嫌になりながら、携帯を開く。
今日の日付を見ると――
「七月……七日……」
七夕だ……。
星に願いをかける、星空の上の恋人が出会う日……。
私達よりも幸せな。
「……骸……」
ぽつりと呟いたその瞬間、携帯が震えた。
メール受信。
……クロームちゃんからだ……。
メールを開き、少し違和感を覚える。
"今夜7時、黒陽ランドに"
いつものクロームちゃんはクロームちゃんらしいメールを送ってくれるのに。
とりあえず「わかった」って送っておく。
時間を見ると六時半……。
すぐに行かなきゃ……。
ベッドに携帯を置き、適当に服を選んで部屋を出た。
外に出ると雨がパラパラと降っていて、傘もささずに歩いた。
空を見ると当たり前に雲っていて、星なんて見えない。
織姫様と彦星様は会えるのかなぁ……。
しばらくすると黒陽ランドが見えてきた。
たんたんと階段を上がり、いつもクロームちゃんと話す場所に来る。
ところどころきしむ床を歩き、入ると中は真っ暗。
「クロームちゃん……?」
ソファーに座る。
携帯を開くとわずかに周りが明るくなった。
六時二十九分……三十秒……四十……。
あと五秒、四、三……ニ……。
「一……」
六時、半……。
ぱっと周りが少し明るくなった。
床もふさふさとして、甘い香りが漂って。
空には、輝く星達。
「え……?」
空を見上げてぼんやりとしているとさく、とこちらに歩いてくる音が聞こえた。
振り向くとそこには……今までで一番会いたかった人。
途端に涙が溢れだす。
愛しい、愛しい人。
「骸っ……!」
「クフフ……やはりあなたは来てくれましたね、似伊」
手で顔をおおって泣く私に骸が近づく。
星空が輝くなか抱き締められて。
耳元で囁かれる。
「今日は七夕ですからね……織姫と彦星に合わせて、この日に会えるようにしておきました」
「そんな、ことしなくてもっ……私は、いつでも会いたくて……!」
濡れた瞳で見上げれば唇を塞がれる。
涙が伝って冷たくなった唇に温かみが広がる。
「こっちの方がよかったんです。いつも会ってるのでは……こんな風によりあなたを愛しく思えない。……それに、クロームに負担もかけられません」
骸の指が私の髪を撫でる。
「……本当、織姫と彦星みたい……」
「クフフ……似伊は本当に可愛らしい人ですね。僕だけの、織姫」
骸と視線が混じり合う。
「……骸、好き、だから……。分かっててね……?」
「もちろんですよ。僕も似伊を……愛しています」
そしてまた唇が重なる。
抱き締め合って、お互いを忘れないように。
織姫と彦星のように。
1日だけの再開を果たした。
(今度会う時は、また七夕の日に)