多ジャンル小説置き場

□友達以上恋人未満
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山本/VD*



「山本はもてるね」
「んー? そっか?」
「これをなくして何がモテないと言うの」

教室に入ると、すでにピンク色。
中でも目立つのが、隣席の、チョコレートの箱が小さな山を作る山本の机。
有名なお菓子屋さんの箱もあれば、手作りと思われる可愛らしいラッピングのされたものまで。
皆気合入れてるんだなあ。
私はさっき京子ちゃんにチョコレートを渡されて気がついたので作っているわけもなく。
コンビニで板チョコとか買ってきました。
京子ちゃんや花には選りすぐりのチョコレート菓子を渡しました。

「似伊はくれねーのか?」
「欲しいの? そんなにあるのに、お腹壊すよ」
「ははっ、大丈夫なのな! お前の一番最初に食べるし」
「えー、なんで最初なの」

私の性格を知っている山本なら、用意していないことは分かるはずなのの。
こういうところが山本のよく分からないところであって困ったものだ。
私の問いかけに、山本もきょとんとして、しばらく考えたあと首を傾げた。

「……なんでだろうな? なんか、そんな気がしたのな」
「変なの」
「ははっ」

爽やかに笑う山本。
女子たちが騒ぐ訳だ。

「で、くれねーのか?」
「仕方ないなあ。山本には特別に」

机に押し込んでいない教科書類を掻き分けながら、鞄から目当てのものを取り出す。
そしてラッピングも何もしていない、バレンタイン用でもないお菓子を山本に手渡す。

「もうすぐ試合あるでしょ。だから、勝ちますよーにってことでキットカットあげる」

パーティパックのキットカットを受け取り、山本は一瞬黙って盛大に吹きだした。
お腹を抱えて笑うほどか。
そりゃ、袋に詰め替えたら女子力とかなんとかってなるんだろうけど、面倒くさい。
おまけに今日気づいたし間に合わないし。
でもいいじゃない、そんなにいっぱいあるんだもん。
キットカットは勝負事に強いよ、きっと。

「あー、本当、お前らしいのな」
「悪かったですねー、女子力のかけらもなくて」
「いや、そういう訳じゃねーけどさ。俺、お前のそういうとこ好きだぜ」

さらりと言ってみせる山本に、今度は私が可笑しくなる。
鞄に顔を押し付けて笑いをこらえるけど、だめだ。

「ぷっ……山本、そういうとこがいけないんだよ……っ」
「何がだよ」
「そうやってさらっと"好き"なんていうから女の子にモテるんだよ。はー、可笑しい。でも大丈夫。私は友達の意味だって分かってるから!」

意気込んでみせると、山本は早速キットカットを開けて食べていた。
本当に私のから食べてるよ。
キットカット好きなのかなあ。妙に美味しいよね。

「んー、そういうつもりで言ったんじゃないけどな」
「えー?」
「お前とは気が合うし、はっきりしてるしいつも自然体だし、そういうところが好きなのな」
「山本なにいってんの? 今日はエイプリルフールでもないし、バレンタインは女子が告白する日だよ?」
「今は逆チョコっていうのが流行ってるぜ」
「チョコ持ってないじゃん」

山本の天然は相変わらず。
「あー、そっか」なんていいながらキットカットをもしゃもしゃ食べて考えてる。
ま、私も山本といると楽だしいいけどね。
もっと言えば、恋愛してる女の子を見るのが好きです。
京子ちゃんは見てるだけでかわいいし、花も美人でさばさばしてるところが好き。
私、男に産まれれば良かったなあ。

「あ」
「ん?」

山本がキットカットを口に加えて、袋をじっと見る。
何を考えているのだろうと見ていると、山本がパーティパックを鞄にしまい、私に近づいた。
座っている私からすれば、立ち上がった山本を見上げるのは首が痛い。
そのまま何も言わない山本に声をかけようとすれば、山本が腰を曲げて私と同じくらいの目線になる。
……ていうか近い。

「何してんの、山本」

キットカットを咥えている山本は何も言わず。
なんだか嫌な予感がもやもやと漂うのでもう一度声をかけようとしたところ、開いた口にそのキットカットを押し込まれた。
甘いチョコレートの味が広がるとともに、さく、というウェハースの食感。
押し込まれたときに唇に、ふに、とした柔らかい感覚。
それは一瞬で、山本がすぐに私から離れる。

「これで逆チョコだな」
「えー、でもポッキーの日でもないんだし。ていうかキスしちゃったよね」

キットカットをもぐもぐ食べながら言うと、山本はまたしてもさらりと笑った。
私とだと恥ずかしくないってことか。
ていうか、私のファーストキスだった。
……あ、でも保育園のときに男の子とキスしたことがある気がする。
じゃあ、まあいっか。

「俺はお前としても良かったけどな」
「もっと可愛い子としなよ。私じゃあロマンスのかけらもないよ」
「ははっ、確かにな」
「それはそれで酷い」

山本がまたキットカットを食べ始めるので私も分けてもらっていると、側にツナが立っていることに気づく。
ツナは顔を真っ赤にして、私たちを見て机を叩いた。

「な、ななな何やってんだよ!」
「おはよ、ツナ」
「はよっす、ツナ」
「おはようじゃないだろ!」






そのあと、何故かツナに怒られたけどよく理由がわからなかった。







(いつも人前でああいうことしちゃだめって言ってるだろ!)
(えー、友達だからいいんじゃないの? ツナだって山本とするでしょ)
(ははっ、男同士はないと思うぜ)
(男女の友達関係でも中々ないよ!)

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