多ジャンル小説置き場

□付き合い
1ページ/1ページ



「好きだよ、似伊ちゃん」

何がどうなって、この状況になっているのだろう。
私の目の前に、一番関わりあいになりたくないと思っていた相手が、私に"好きだ"と言った。
言葉もかわしたことさえなければ、目も合わせたこともない。
彼、天谷くんが私の名前を覚えているのにも驚くほどに。
良くない噂ばかりの彼は、所謂不良というやつで、平穏な学校生活を送りたかった私は絶対に関わりを持たないと誓ったのだ。
なのに、園芸委員だったために花に水をやりにいくと、物陰から彼が私を引き摺り込んだ。
壁に追いやられて、彼の顔を見たとき私は何より驚いた。

「……天谷く」
「あんたの物怖じしないとことか、すっげー気に入ってんだよね」

私に発言権はないのだろうか。
間近にある天谷くんの顔をじっくりと見れば、瞳に光がさしていない。
いや、さしているのだけれど、そんな気がするのだ。
それなのに、口は半月を描いて楽しそうに。
不気味だった。

「……あの」
「俺のことあからさまに避けてたのにこの態度、いいねえ」

こいつは本気でやばいかもしれない。
早く逃げなければ。
けど、私の足の間には彼の片足が入り込んでいて、顔の両端には彼の腕。
逃げ場がどこにもない。
逃げる手だてなんていくらでもある。
例えば、腕に噛み付けば一瞬怯む。
相手が男なら弱点はあるし。
だけど、相手は学校屈指の不良。
それが通用するとは思えない。
あー、困った困った。

「ははっ、でも顔に出過ぎてんねー。ばれっばれ」
「……うるさ」
「いくらでも抵抗しても構わねーけど、そんときはそれなりの覚悟があるって解釈するから」

楽しそうにぐぐっと顔を近づけられる。
顔を引こうにも壁があって敵わない。
こりゃあ、無理っぽい。
そもそも、こいつはどんな理由で私に告白したんだ。
初めからわけが分からなすぎて収拾がつかない。

「そうだな、興味があるからってところかな」
「……なんで」
「なんでって、だからさっきから言ってんじゃん」
「じゃなくて、なんで私が言おうとしてたことを」
「だから、顔に出過ぎなんだよ」

そうして言った奴の顔はどこまでも不愉快だった。
顔に出る、とかあんまり言われないんだけどなあ。
まあ、ようやく話も通じたし、理由も分かったけどここからどうしよう。

「……で、どうしてほしいの」
「そっだなー……返事、なんていうのは期待してないけど、これから俺とどう付き合うか考えてみろよ」
「は?」

返事は期待してないって言いながら、付き合いの話?
なにこいつ、頭のねじぶっ飛んでるんじゃないの。

「付き合いってのは男と女じゃなくてさ、今後の俺たちの関係だよ」

天谷くんが私から離れてくれる。
ようやく思い切り息が吸えた。
天谷くんの様子を伺うと、私に背を向けて天を仰いでいる。
私に何か話かけているようだけど、正直頭には何も入ってこない。
……この隙に逃げ出してやろう。
三秒数えたら走る、と心の中で呟き、カウントダウンを開始する。
一、二、三……。
数えたところで駆け出そうとすると、心は前に向かっているのに体は後ろに仰け反った。
判断出来ずにいると、ぽすりと言う柔らかい音と共に手首に冷たい感触。
背筋がぞわりとした。

「なに逃げ出そうとしてんの?」
「……っ」

にたりと笑う顔に反して、ぎりっと締め付けられる手首。
耐え難い痛みに思わず「離して!」と声を荒げてしまう。
それよりも私は、天谷くんに恐怖を抱いたのかもしれない。
これまでとは違う恐怖。
絶対に、逆らってはいけないと。
天谷くんは手首を離してくれた代わりに、今度は私の腰に腕を回した。
さっきよりも事態が悪化している。
逃げられない。

「俺の話聞いてた?」
「……聞いてなかった」
「ふはっ、ほんと正直だねぇ、黙ってりゃいいのに」

彼は私そのまま持ち上げ、壁に背を預けて座り込む。
私も座らされたけど、腰に回った腕は解放されない。

「俺、この世界に飽き飽きしてんだよね。皆仲良くして平和ですってさ。嫌なことがありゃそいつを殺してでも納得させたい」
「頭狂ってんじゃないの」
「あんたたちはそう言ってるけど、俺はあんたたちのが狂ってると思うね。嫌いな相手とわざわざ仲良くして、馴れ合って」
「そういうのが生きるために必要なんでしょ、きっと」

天谷くんの言ってることも一理ある。
けどそれがどうしようもない時だってある。
それを踏まえて適当に答えると天谷くんは急に黙って笑い出した。
盛大に。

「……なにがおかしいの」
「あんた、ほんとに俺と一緒だな」

天谷君と一緒?
冗談じゃない。
こんなは頭狂ってる奴と一緒だって言われるなんて。

「やっぱり、俺と付き合おうぜ、似伊ちゃん」
「お断り」

そうだよなあ、なんてまた笑うこいつを私はどうすればいいのだろう。
答えは出ないまま黙っていると、天谷くんは笑うのをやめて立ち上がる。
私も解放されたけど、逃げ出そうなんて気は起きなかった。

「もうすぐチャイム鳴んね。じゃ、また今度な」
「もう来ないで欲しいんだけど。それに、私まだ委員会の仕事が」
「真面目なあんたが授業より委員会取んの? 後回しでもいいだろ。あ、もしかして俺と一緒に戻りたくないんだ?」

にやにやと挑発する天谷くんについ乗ってしまうのは、私の悪い癖だ。
真面目なわけじゃないけど、バカにされるのは癪にさわる。

「……戻る」
「ははっ、マジで真面目ちゃんなのかよ。ま、そんな真面目ちゃんのまま、俺とのことも考えといてよ」

断ったはずだけど、と返せば、まあまあと宥められた。
隣で歩くこいつに、さっきの手首のお礼も込めて蹴りを入れてやりたいところだけど、今度は足までやられたらたまったものじゃない。
"抵抗したらそれなりの覚悟がある"って解釈されるようだし。
"天谷くんと付き合うのは絶対にあり得ない"という考えだけは変わらないけど。

教室前の廊下まで来ると、クラスは別々のために別れた。
天谷くんは眠たそうな顔で、「またな、真面目ちゃん」と教室に入っていく。
なにも返事はしなかった。
彼の教室が賑やかから一転して急に静かになったのは、この学校では当たり前になっている。
それくらいの奴なのだ、天谷くんは。
私も早く戻らないと、先生に怒られる。







教室に入って数分後、まさか私の考えがひっくり返るなんて思いもしなかった。







(なんとか生き残って合流した天谷くんは)
(先ほどまでとは違う狂気的な顔をしていた)
(そして不気味なほどに笑って"だから言っただろ?"と私に語りかけたのだ)



「神さまの言うとおり」より天谷くん。
天谷くんのキャラがとてもつかめていませんが、天谷くん好きです。
多分、人に対してこんなに温厚じゃないし変態なのも出せていませんがどうしても書きたかった…!
天谷くんはとっても変態なのにとってもお茶目なところが好きです。
丑三くんも好きです。
書いている本人すらどんな話にしようかわかっていなかったので読みづらいと思いますすみません。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ