年一 小説

□一年目、八月一日2
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近づいてきた親子は、魔法使いの中でも純血の家系であるマルフォイ家らしい。
綺麗な銀髪の男性がルシウスさん。その息子がドラコ。

因みに、マルフォイ家は純血主義なために、マグルの血が混じっている人を見下すらしい。
父は、もちろんマグルの間から産まれた魔法使い。
つまり、父はルシウスさんに嫌がらせをされていたらしい。
私にはさっぱりな話だけれど、魔術学校には四つの寮があって、その寮同士でも対立かんけいがあるらしい。
父とルシウスさんはその対立する寮だったわけだ。
そのルシウスさんがなぜこちらに近づいて来たかというと、私が産まれてから一度もこちらに顔を出していないところをつかれたらしい。
あんなに綺麗なのにもったいない。

身近なカフェで父の話を聞きながらクリームブリュレを食べる。
魔法界でも普通の食べ物はあるらしい。
相変わらず魔法使いの世界はさっぱりだ。
でも、やっぱり興味がある。
聞くところによれば、あの漏れ鍋も普通の人は見えないらしい。
始め、それを聞いたときには私にも魔法使いの血が流れているのかと期待したけれど、存在を知っていれば入れるみたいなのでがっかり。
そういえば父も私に事前に話してくれてたことを思い出した。

「いいなあ、お父さんは」
「どうしてだい?」

さっきまで浮かない顔をしていたお父さんが、ホットコーヒーの湯気の向こうで驚きの表情を見せる。
食べ終えたクレームブリュレを置き、オレンジジュースを一気に飲み終えて気持ちを落ち着かせる。

「だって、そんなことがあってもやっぱり魔法の世界は楽しそうだもの」

私がそう言いながらグラスに残った氷をカランカランと鳴らせると、お父さんは複雑そうな顔をした。
お父さんは優しい。

「あんな不思議な世界、私だって行きたかった」
「そうだね。……でも、お父さんはこのままで良かったと思ってるよ。メアリーに同じ思いはしてほしくないからね」

ほら。
こうやって人のことばかり考えるから。
少しは自分のことも考えてほしいものだわ。
ふわふわと浮かんでコーヒーをつごうとするポットに断りを入れるお父さんを見ながら、手を止める。
お父さんの言うこともわかるけど、やっぱり私も行きたかったよ。
お父さんと同じ経験したかった。
魔法使いに産まれた子は、幸せなんだろうな。

ふと、さっきの親子を思い出す。
あの親子は苦手だ。私の直感が珍しく役に立つ。
お父さんを苦しめた家系。
思い出すのさえ嫌になる。
……けれど、傍にいたドラコ。
みたところ私と同じくらいの歳だった。
お父様と同じ、青白い肌に整った顔。
プラチナブロンドの髪。
一度見たら忘れられないような姿だ。

そういえば、ルシウスさんが言っていた。
「娘がマグルで良かったな」って。
それはつまり、嫌味なのだろうか。
魔法使いだと気味悪がられてきたお父さんへの。
でも、お母さんみたいにそんなお父さんを受け入れてくれる人もいるんだから勘違いしないで欲しいわ。
思い出すだけで苛立ち、氷が溶けてきたグラスを見つめる。

ちらりと窓の外を見ると、あの親子以外にもたくさんの親子が見える。
何故なのかぼんやり眺めていると、皆うきうきとした表情でお母さんたちを引っ張っている。
たのしそう。

「……ねえ、おとうさん」
「なんだい」
「……なんだか、親子が多いね」
「ああ、多分、もうすぐホグワーツが始まる頃だからじゃないかな」

そうか。つまり、入学準備。
ああ、羨ましい。
人間の学校なんて、私はちっともうきうきしないわ。
ぼうっと行き交う親子をながめていると、お父さんがカップを置いた。
そして立ち上がり、こう言う。

「さあ、じゃあ出ようか。今日は特別な日だからね、ここで好きなものを買ってあげよう。……特別だよ」
「……! うん!」

お父さんの手をしっかりと握り、お会計を済ませてお店を出る。
魔法の道具は何もかも素敵ですべて欲しくなってしまう。
何より、私も他の子と同じように入学準備をしている気分だった。
少しでもこんな気分になれて幸せだ。
一通り見たお店を改めてよく見て、じっくり決める。
お父さんとお揃いのローブもいいし、そこらじゅうに売っているお菓子も捨てがたい。
一番欲しいのは杖だけど、魔法が使えないんじゃ売ってももらえないだろうから断念。

「メアリー」

お父さんに急に呼ばれる。
お父さんには手招きをして、お店のショーケースをコツコツと叩いた。
駆け寄って見てみると、フクロウがたくさん。
フクロウの専門店らしい。
でも、フクロウなんて飼い方がわからないし、ここに売っているフクロウは魔法使いのためのようなもの。
一般人の私が飼ってもいいのだろうか。
考えるから私とは反対に、お父さんにはお店に入って行く。
中に入るわけにも行かず、お父さんを見つめていると、一匹のフクロウの前で止まった。
そしてお店の人を呼んでフクロウの籠を受け取る。
そのまま微笑んでお店を出てくると、私にそのフクロウを渡してくれる。
人間の世界でもフクロウは結構するはずだけれど、いいのだろうか。

「フクロウはね、手紙の配達をしてくれるんだよ」
「お手紙……?」
「そう。フクロウに手紙を持たせれば、どんなところにも届けてくれる
。魔法使いはみんなこうして手紙を届けるんだよ」
「へえ……」

素敵、一瞬そう思ったけれど一般でも使えるのかな。
じっとフクロウを見つめると、フクロウは大きな目をぱちくりさせて一声鳴いた。
高くて力強い声。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん」

少し名残惜しいけれど、仕方ない。
元きた道を戻り、漏れ鍋を出て行く。
フクロウをしっかりと抱きかかえて、お父さんはわざわざ人通りの少ないところを通って行った。

家に着くと、お母さんが夕飯の用意をしていた。
そしてフクロウを抱きかかえる私に嬉しそうな顔でおかえりと言った。
お母さんはお父さんが私をあの不思議な世界に連れていってくれることを知っていたんだろうな。
お母さんも私と同じで魔法使いが使えない。マグルだ。
夕飯のときは魔法界の話で持ちきりで、お母さんの質問攻めだった。
「楽しかった?」とか、「どんなものがあった?」とか。
私はとにかく楽しくて、不思議な世界だということを伝えたかったけど、ぴったりな言葉が見つからなくて上手く言えなかった。
そのうち、あの例の親子を思い出し、サラダをもそもそと食べながら一応話す。

お母さんは何もかも楽しそうに聞いていて、お父さんのことを羨ましそうに見ていた。
私もお父さんを見ている時はあんな顔なんだろうなと思いながらお母さんお手製のスープを飲み干す。

部屋に戻るとフクロウがキィキィと鳴いて籠をガシャガシャ言わせた。
お腹が空いてるのかな。
とりあえずフクロウ用の餌をあげると、少し落ち着いたようだった。
正直、フクロウの鋭い嘴は怖かったけれど飼う以上そんなことは言ってられない。
籠の扉を開け、出してあげると首を傾げて私に向かって飛んできた。

「うわっ……!?」

驚いて目を瞑ると、フクロウは私の腕に器用に乗って私の服を掴んでいる。
意外とおとなしいのかもしれない。
そっと頭を撫でてみるとなんともない。
なんだか安心した。
でも、今日も疲れが溜まっているのか安心感と共に眠気も襲い、仕方なくフクロウを籠に戻す。
明日には名前を考えてあげようと思いつつ、ベッドに倒れこむ。






……また行けますように。






(窓から見える輝く星にそう願った)

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