From. 小説

□Hallo!
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「珠依、手紙を書かない?」

じりじりと熱い太陽に照らされながら学校から帰ると、お母さんに言われた。
そのお母さんの手には、開けられた封筒が握られていて、その中身を見ているお母さんの顔はこれまでにないほど嬉しそうだった。
「どうして?」と首を傾げると、お母さんは私の目線に合わせてしゃがみ込み、さらに笑顔で続ける。

「お母さんのお友達に、珠依と同じ歳の子がいるの。その子とはお友達にならない?」
「でも、それなら直接会えばいいでしょ」

お母さんとリビングのソファに座り、汗で濡れた髪をタオルで拭かれながらお話を続ける。
はたはたと舞い込んでくる風が心地よかった。

「それがね、そのお友達、外国の人なの」
「外国人なの?」
「そう」

外国人、と聞いて真っ先に思いつくのが、英語だ。
当たり前のことだけど、これが思い浮かぶ。
だって、外国の人って言葉が全く分からないし、私が小さいだけかもしれないけど背がおっきくて怖い。
うーん、としばらく考えているとお母さんはクスクスと笑って頭を拭く手を止めた。

「そうだね、お手紙って言っても、英語で書かなきゃ分からないし大変だよね」
「英語で書かなきゃいけないの? あの変だけどかっこいい文字?」

それはちょっと書いてみたい。
けど、訳のわからない言葉で書かなきゃいけないのは面倒だ。
矛盾が頭の中でぐるぐるとする。
ううんと悩んでいると、またお母さんのお口添え。

「珠依のお勉強のためにもなるのよ。将来、英語ができたら仕事も楽しくなるし」
「外国でお仕事できるの?」
「うん、そういうのもある」

それはとっても魅力的。
外国はすっごく綺麗なんだろうなあ。
フランスとかイギリスとか、きっととても素敵だよ。
言葉が面倒くさいのは厄介だけど、今ここで学べばなんてことない!

「書く! お手紙書く!」
「よし、じゃあ早速お勉強しよっか」
「う、うううん」
「ほらほら、早く早く」

お母さんにずるずると引っ張られて、私の部屋でお勉強をする。
お母さんは小さい時、それこそ私ぐらいの時に外国に住んでいたらしく、そこでそのお友達と出会ったらしい。
日本に戻ってきてもその仲は続いていて、お互いに子供が出来るまで交流が深いみたい。
だから、私にも勧めたんだとか。
そしてよく聞けば、男の子。
男の子となんてあんまりお話もしないから貴重な体験になりそう。
私もその子と仲良くしたい!
と意気込んだのはいいものの、やっぱり異国の言葉はわけがわからない。
まず、ローマ字っていうのはうねうねとしていて書きづらいし、大きいのと小さいのに分けられていて難しい。
文については、「はろー」とか「ぐっもーにん」とかはわかる。
「ないすちゅーみーちゅー」もなんとなくわかる。
けど、いきなり、"どうし"とか"けいようし"とか出てきてさっぱりわからない。
もうそろそろ嫌になってきた頃、お母さんに支えられながらも勉強する。

泣きそうになりながら続けること一週間。
なんとなく、なんとなく分かってきた。
結構物覚えはいいらしい。
少しでもわかると楽しいもので、学校から帰ってくるとお母さんとのお勉強が楽しくなっていた。

「これが、主語で……これが動詞!」
「そうそう! ……うん、とりあえずなんとかなりそう」
「ほんと?」
「うん。じゃあ、次はお手紙書こっか」

待ちに待った便箋が机に置かれる。
周りがレースのような柄で、金色が縁取られている。
私が使っているものより大人っぽくて、少し緊張した。
手紙は、日本と同じ書き方でいいらしいので英語にするだけ。
まず、お名前ーールーピンさま。
ちゃんと綴り合ってるかな。

「上手上手。そういえば、何書くのか決まってるの?」
「えっとー、お友達になってください、ってことかなあ」
「率直でいいと思うよ」

なんだか笑われているけど、まずは気持ちを伝えなければ始まらない。
お母さんに見守られながら一文字一文字丁寧に綴る。
お母さんたちのように、こうやって遠くにいても友達ができますように。
そう願いを込めて、一生懸命書いた手紙は、今までの中で一番いい出来だと思った。







どうか無事に届きますように!







(早くお返事来ないかなあ)

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