短編【HP】
□Who are you?
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毎年、九月に入ったころには決まって旅行に行く。
目的は家族旅行。
小さい頃は楽しみで仕方なかったけど、月日が経つと別の楽しみが生まれた。
それができたのは私が十一歳の時から。
汽車に乗って、時間があるからと売店に行こうとしたときに遠目に同い年くらいの男の子二人が目に止まった。
もちろんただ目に止まったわけではなく、その二人の髪が燃え盛る火のようだったからで。
おまけに双子なのか顔がそっくりで驚いた覚えがある。
じっと見つめていると、双子のうちの一人がこちらを向いて目が合ったようだった。
「……っ」
目が合ったから急に恥ずかしくなって、顔が赤くなるのを隠そうと手で覆う。
男の子はいたずらっ子そうな笑みを浮かべ、一緒にいたお兄さんやお母さん達に先を急かされていた。
その男の子とは違う双子の片方が進み、それに続く。
どこへ向かうのかと覗こうとすると、人の波が押し寄せ姿は確認できなかった。
それが、始まり。
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一昨年も去年も見かけた。
あのとき見た双子は元々、身長が高かったけれど一年すぎるごとにまた高くなっていた。
何より驚いたのは、双子の片方――あのとき私の方を振り返った男の子は毎年のように私と目を合わせること。
相手も私を覚えてくれてるんだ、ということに嬉しさを感じ、次第に話したこともない彼に惹かれていった。
「ママ、ちょっと売店に行ってくるわ」
「一人で大丈夫? 迷っちゃ駄目よ、時間には間に合うこと……いい?」
「大丈夫よ、分かってるわ」
荷物を座席に置いて列車を降りる。
相変わらず人が多いなぁ……。
見つかる、かな……。
「なあ、君って……」
「……えっ……?」
姿を探す手間なく、彼は後ろにいた。
十一歳のときの面影がわずかにある。
「あっ……えっと……?」
「うん、やっぱりな。昔に会ったよな……というか目合ったって言ってた」
や、やっぱりあの時の男の子……?
でも言ってたって……?
今まで目が合ってたって思ってたの私だけだった……?!
うわー恥ずかしいー……!
「え、と……覚えてくれてて何よりです……」
「ずっと話しかけたいと思ってたんだけど、なかなか……フレッドが……」
「フレッド……?」
きょと、とすると男の子は手を左右に振って何度も「なんでもない」と言っていた。
ごまかすようにが私の手を握り、ぶんぶんと手をふった。
痛い痛い。
「毎年見るんだよな」
「私が合ったのはあなたなの?」
「いや、俺双子だからもう一人の方なんだ。フレッドって言うんだけどさ」
「そっか……。毎年目が合ってた気はするんだけど……」
気のせいだったかな、と言葉を続けようとすると別の声に遮られた。
男の子とそっくりな声。
「ジョージ、ママが心配してたぞ」
「噂をすればだ」
「ジョージ……? って、あなたのお名前?」
男の子に目配せすれば笑って頷いた。
そして私の声に気がついたジョージと同じ顔がこちらを向く。
「ああ、君がジョージが言ってた……」
フレッドがにこりと笑って話した途端、ジョージが口をふさぐ。
フレッドは変な声をあげたけど、ジョージが変わりに話す。
「フレッド、ママが心配してるんだろ。行くぞ!」
「な、なんだよ急に……?!」
状況が掴めないフレッドと焦った様子のジョージはあっという間に人混みに紛れてしまった。
お礼言い忘れたな……
そうだ、売店行こうかなぁ。
「ノエル!」
「えっ……と……ジョージ……?」
さっきと同じ顔がやってくる。
だけど一人だからわからない。
双子のどちらかも「さあね」と教えてくれなかった。
「お、教えてくれても……!」
「じゃあ教えてあげるよ。君と会ったのは俺。君と目が合ったのも俺。そして、君を好きになったのも俺」
「……す……?」
顔が赤くなっていく。
パクパクと口を動かしていると双子のどちらかの手が私の頬を滑った。
いたずらっ子な、可愛らしい笑み。
「じゃあ、またな。ノエル」
そう頬にキスを落とし、去っていく。
呼び止めることもなく顔を真っ赤にして立ち尽くす私は、手の中に紙のようなものが入っていて。
それを開いてみると――
"ふくろうが手紙を届ける"と書いてあった。
(後日、本当にふくろうがやってきて驚いた)
(差出人は……双子のどちらか)
(開いてみるとなぜかお花がたくさん降ってきて)
(たった一言だけ)
("愛してる"の文章だけ)