短編【HP】

□眠気も吹っ飛ぶ悪戯
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見慣れた赤毛の背中を見つけて、人目をはばからずに駆け出し、その背中に抱きつく。
"おっと"と特に驚いた様子もなく受け止める彼。
そのまま彼の背中にぐりぐりと頭を押し付けると、彼の腰に回る腕に手を添えられる。

「なんだい、ノエル」
「んー……眠い……。フレッドは今日も元気そうね……」

昨日はやけに眠れなかったために、今日の朝日は凶器のようだった。
今、この廊下の窓から差し込む日の光も辛い。
フレッドはいつものふざけた調子でくつくつと笑った。

「君は吸血鬼のようだね」

むっとして顔をあげると、フレッドの横顔がこちらを見ている。
その笑みが悪戯っ子のようで、でも優しそうで複雑だ。

「ところでノエル、よく僕がフレッドだって分かったね」
「当たり前でしょ。普通わかるものよ」

ふう、とため息をつきながらフレッドにしがみつく。
うとうとと瞼が閉じそうなのを我慢して、フレッドの低くて甘い声に耳を傾ける。

「へえ、もしジョージだったらって思わないの?」
「思わないわよ。だって、フレッドはフレッドで、ジョージはジョージだもの。双子だとしても違うんだから……」

欠伸混じりに答えると、フレッドは"よくわからないね"と言った。
頭を撫でる代わりに腕をぽんぽんと触れられる。
それが心地よくて、そのまま眠りそうになる。

「……それに」
「ん?」
「フレッドの背中は、いつも見てるもの。私を引きつけるみたい。不思議ね」

何気なくぽつりと言ったつもりで、いつものように笑われるだろうと思った。
けれど、フレッドからの返事はなく、彼は急に私の方へ体を反転させ、逆に抱きしめられる。

「フレッド……?」

眠い瞼をぱちぱちと瞬かせ、フレッドのローブを握り返す。
フレッドは耳元でくつくつと笑いながら、そのまま私を横に抱く。
一気に眠気が吹き飛んだ気がして、その場で暴れる。

「ふ、フレッド……っ!?」
「君には敵わないね、お姫様?」

私に問いかけるようにして、悪戯をする時のように笑うと、私の額にキス。
ぱっと額を抑えると、今度はその手にキスをされる。
どうしようかと唸っていると、フレッドは楽しそうににやにやしている。

「フレッドの、ば、馬鹿……っ」
「ノエルが眠そうだったから、目を覚ましてあげただけなんだけどね」

悪気はないといった感じのフレッドは余計にたちが悪い。
確かにそうかもしれないけど、それでもやり方というものが……!
むっとしている私に、フレッドは悪戯な表情を緩めて笑った。

「お目覚めですか? お姫様」
「お、おかげさまで……っ」

"だから早く離して"と言おうとする唇を奪われる。
言葉が喉の奥で引っかかったまま、息苦しさを感じる。
軽くフレッドの肩を叩いてみると、唇がゆっくりと離れていく。
大きく息を吐いて、ほっとすると、もう一度、唇が重なった。
息をついたばかりで酸素が薄い中、また息苦しくなる。
意識が朦朧とする中、さっきより強めに肩を叩くと、フレッドの顔が離れて行く。

「……っ、死ぬかと、おも、思った……っ」
「ノエルが俺の背中に引きつけられるように、俺はノエルの唇に惹きつけられるってことで」

恥ずかしげもなく言うフレッドに私が恥ずかしくなる。
"何言ってるの"とか"恥ずかしい"とか散々言いたいことはたくさんあるのに、口から出てこなかった。
さっきみたいに塞がれちゃいそうだし、頭が混乱してなんと言えばいいのかわからなかった。

「……なんか、磁石みたいだね」
「なにがだい?」
「私と、フレッド。お互いに引き寄せられるの」

身振り手振りでやってみると、フレッドは、ああ、と頷いた。

「じゃあ、俺たちは同じ極じゃないわけだ」
「うん。そうだね」
「だからこうして、くっついていられる」

フレッドが腕に力を込め、抱きかかえられていたことを思い出す。
降ろして、と肩をぐいぐい押すけれどびくともしない。

「磁石はね、自力では離れられないんだ。だから、降ろすこともできないよ」

しまったと、墓穴を掘ったと思った。
つまり彼は、誰かが引き離してくれるまで降ろしてくれないつもりだろう。
いい加減、周りも人が増えてきたし視線も痛い。
そんなの気にしないのが彼なのだから困ったものだ。

「じゃ、じゃあ……とりあえず、寮行こうよ……」
「今から授業だけど?」
「こ、こんな格好で授業行きたくないっ……!」

しかも次の授業、魔法薬学だし……!
スネイプ先生だし…!
どうせ、授業でも誰かが離してくれるまで離さないつもりでしょうし。
こんな格好で授業行ったら先生にどんな目で見られるか……!

「……へえ、じゃあ寮でなら恥ずかしくないんだね?」
「人目が少ないですからね……」
「でも、無断で授業を受けなかったらスネイプの奴、どんな顔するだろうな」
「えっ……」

フレッドの言葉を聞いて、さっと血の気が引く。
そうだ、どっちにしろ危ない。
どっちにしろグリフィンドールの点は引かれるわ、嫌な顔されるわ、ねちねち文句言われる。
最悪だ。

「まあ、お姫様が言うなら仕方ないよな!」
「えっ、えっ……!? ちょ、ちょっと待って! 取り消すから教室に……」
「取り消し不可能!」

そう言って、何度弁解しても聞いてはくれなかった。
結局、寮でずっと離れてくれないし、教室から戻ってきたジョージや他の生徒にも苦笑いされる。
最終的には、遅れて戻ってきたハリーやロン、ハーマイオニーに助けを求めて離してもらった。
ジョージはなぜか手伝わず。
フレッドも渋々離れてくれた。
フレッドのおかげで吹っ飛んだ眠気は戻ってきて、次の占い学ではぐっすり眠っていた。
……スネイプ先生にはすれ違うたびに文句を言われたけれど。






今度からは失言しないようにしよう……。






(フレッドの馬鹿……!)
(……でも、好きだなんて、わかんない!)


……眠い過程いります?((
自分で思ったけど抱きしめるまでの過程ということ、で……
ジョージには後ろから抱きしめてもらって、フレッドには後ろから抱きついてもらいました。
後ろから抱きつく構図が大好きです。

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