いち

□幸福論
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どうして男性はいやらしい本やら、ビデオやら、DVDやらが好きなんだろう。

悲しいかな、スペルビ・スクアーロだって例外じゃない。

私という恋人がいながら、何でそんなものを使って抜くんだろう。
私とのセックスは気持ち良くないのだろうか。
それに加えて、スペルビが他の女性を想像して抜いていると考えると、そんな心配はばかばかしいと解っていてもほんの少し胸の傷が滲みるのだ。

そんな事を考えながら、窓の外を眺めた。
生憎のざざ降りである。
人通りの多い道路に面した喫茶店にいる私たちは、何も話さずにただ目の前にある飲み物や食べ物に手を伸ばしていた。

雨が人々を叩こうとしているのにも関わらず、色とりどりの気難しい傘がそれを阻んでいる。

スペルビが徐にこちらを見ると、窓の外を眺める私に微かな不機嫌を感じ取ったようだった。
スペルビは私の機嫌を直そうと考えたらしく、色々話をしてくれた。
私は心此処に在らずだが、適当な相槌をうち、スペルビの肩にもたれ掛かった。

スペルビは満足したらしく、また沈黙が訪れた。
私の手をしっかりと握るスペルビの横顔を眺めた。

また窓の外に目を移せば、怒ったように早足で過ぎる赤い傘が、私たちのいる喫茶店の前を素早く通り過ぎ、雨の降る青い町の中に溶けていった。

それを眺めていると、ふと、セックスや欲望や、その類いのものが馬鹿らしく感じられた。

そもそも、何故愛にセックスが関わるのか、私はスペルビの何を欲しているのか。

セックスなんて、愛がなくても成り立つ。
それ自体はただの『行為』でしかない。
スペルビのその行為(一人でも二人でも)に一喜一憂する気持ちは、何なのだろう。
なぜ私は、スペルビの欲情の対象が私でないと不満なのだろうか。

それは、普通女性が感情的動物だからなのかも知れなかった。
私は女性特有の独占欲に駆られているだけなのかも知れなかった。



私がスペルビの部屋でいかがわしいDVDを見付けた時にこんな風な事を言っていたっけ。

俺が愛してるのは、お前だ。俺にとってはDVDは抜く手段であって、その人が好きだからじゃない。お前で抜くのが、お前に対して後ろめたいからだ。

スペルビがそう言った時、私は妙に納得したことを思い出した。
私とセックスをした後ですら私を想像することに後ろめたさを感じるスペルビが、とても可愛らしく、いとおしく感じられた。

これから何度も自分のこの感情に流されて、自問自答するのかも知れない。
でも、またこんな風に自問自答して、スペルビとセックスするのだろう。

雲がだんだんと薄くなってきた。
そろそろ、雨があがりそうだ。

私は、今からスペルビとセックスをする。






(おしまい)

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