駄文

□迷夢
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昼休み。
涼宮ハルヒは、足早にある場所へ向かっていた。
それは、新しく部活を創り出す為に、捜し当てた場所。
文芸部部室。
部員が一人なのも、調査済。
後は、交渉だけ。

「ちょっとお邪魔するわよ」

ノックも無しに、勢いよく開けたドアの先に、一人の少女がいた。
普通なら、何か反応しそうなものなのに、特に反応もなく、未だ本に目を落としたまま、窓際の椅子に腰掛けている。
そんな状態なので、顔はよく分からない。

「…えっと、聞こえてる?」

その言葉に、ようやく少女は顔を上げ、答えた。

「聞こえている」

無機質だが、整った顔立ち。消え入るような、澄んだ声。
涼宮ハルヒは、一瞬、奇妙な感覚に陥った。

何かに殴られたように、思考はフリーズ。
反対に、鼓動はいつもに増して、高鳴っている。

「…」
「…」

数秒、室内に沈黙が訪れる。

「…っ」

沈黙を破ったのは、訪れた方。そして、何かを振り捨てるように首を振り、づかづかと先に居た少女の元へ歩み寄り、言い放つ。

「突然で悪いんだけど、この部室、私に譲ってくれない?」

しかし、その内容は、突然訪れた者の発言としては、支離滅裂。


「別に、追い出したりしないわ。私は、新しい部活を創りたいの。その為には、先ず基地為る場所が欲しいのよ」

先程の言語では、説明不足だと判断したのか、更に言葉が連なる。

「だから、この場所を使う権利を、私に譲って!?」

後半、嘆願の筈が、最早脅迫じみている。

「別に構わない」

「へっ?いいの?」

意外にあっさりと交渉が成立してしまった為か、嘆願者(脅迫者)は、呆気に取られている。

「どうぞ」

「そっか。じゃあ、また放課後来るから」

承諾を得て、嘆願者は意気揚々とこの場を後にしようと、ドアノブに手を掛け、振り向いて、口を開く。

「そういえばアンタ、名前は?」

「長門有希」

「へぇ。綺麗な名前ね」

「そう」

それきり、二人は会話なく、別れた。
文芸部部室から少し離れた廊下を歩きながら、涼宮ハルヒは呟く。

「'ユキ'か、不思議な子だったな」

名前を呟きながら、先程の妙な感覚を思い出す。
あれは、一体何だったのか。まさか、精神病の一種ではないだろうか。
そこまで考えて、そんなわけないと、自嘲気味に笑い、涼宮ハルヒは、足を速める。

多分あれは、きっと'一時の気の迷い'だと、自分に言い聴かせて。




END










――――――
あとがき

一目惚れを認めないハルヒが書きたかったんです。
その後、無自覚でずっと長門を眼で追ってれば良いと思う。

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