駄文
□迷夢
1ページ/1ページ
昼休み。
涼宮ハルヒは、足早にある場所へ向かっていた。
それは、新しく部活を創り出す為に、捜し当てた場所。
文芸部部室。
部員が一人なのも、調査済。
後は、交渉だけ。
「ちょっとお邪魔するわよ」
ノックも無しに、勢いよく開けたドアの先に、一人の少女がいた。
普通なら、何か反応しそうなものなのに、特に反応もなく、未だ本に目を落としたまま、窓際の椅子に腰掛けている。
そんな状態なので、顔はよく分からない。
「…えっと、聞こえてる?」
その言葉に、ようやく少女は顔を上げ、答えた。
「聞こえている」
無機質だが、整った顔立ち。消え入るような、澄んだ声。
涼宮ハルヒは、一瞬、奇妙な感覚に陥った。
何かに殴られたように、思考はフリーズ。
反対に、鼓動はいつもに増して、高鳴っている。
「…」
「…」
数秒、室内に沈黙が訪れる。
「…っ」
沈黙を破ったのは、訪れた方。そして、何かを振り捨てるように首を振り、づかづかと先に居た少女の元へ歩み寄り、言い放つ。
「突然で悪いんだけど、この部室、私に譲ってくれない?」
しかし、その内容は、突然訪れた者の発言としては、支離滅裂。
「別に、追い出したりしないわ。私は、新しい部活を創りたいの。その為には、先ず基地為る場所が欲しいのよ」
先程の言語では、説明不足だと判断したのか、更に言葉が連なる。
「だから、この場所を使う権利を、私に譲って!?」
後半、嘆願の筈が、最早脅迫じみている。
「別に構わない」
「へっ?いいの?」
意外にあっさりと交渉が成立してしまった為か、嘆願者(脅迫者)は、呆気に取られている。
「どうぞ」
「そっか。じゃあ、また放課後来るから」
承諾を得て、嘆願者は意気揚々とこの場を後にしようと、ドアノブに手を掛け、振り向いて、口を開く。
「そういえばアンタ、名前は?」
「長門有希」
「へぇ。綺麗な名前ね」
「そう」
それきり、二人は会話なく、別れた。
文芸部部室から少し離れた廊下を歩きながら、涼宮ハルヒは呟く。
「'ユキ'か、不思議な子だったな」
名前を呟きながら、先程の妙な感覚を思い出す。
あれは、一体何だったのか。まさか、精神病の一種ではないだろうか。
そこまで考えて、そんなわけないと、自嘲気味に笑い、涼宮ハルヒは、足を速める。
多分あれは、きっと'一時の気の迷い'だと、自分に言い聴かせて。
END
――――――
あとがき
一目惚れを認めないハルヒが書きたかったんです。
その後、無自覚でずっと長門を眼で追ってれば良いと思う。