駄文
□決定打
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放課後。
私達SOS団は、いつものように、気兼ねなく過ごしていた。
みくるちゃんは、いそいそとお茶を淹れてくれてて。
キョンと古泉君は、ボードゲーム。
有希は、いつもの席で読書中。
私と言えば。
端から見れば、ネットサーフィン中。
だけど実は、ちらちらと別の方向へ眼が行ってたりする。
こんな大した物は何もなく、ちらちらと見るような価値があるモノなんて、みくるちゃん以外ないような部屋ではあるが、私の眼を奪っているのは、別のモノ。
決して、変な眼で見てるんじゃない。
普段、あんまり表情が変わらなかったり、派手に動いたりしないから、逆に気になってるだけ。
そうに決まってる。
しかし、こうして見ると、綺麗な顔よね。
髪とか撫でたら気持ちよさそうだし。
スレンダーな感じだけど、細くて儚げで、思わず抱き締めたくなりそうな感じ。
笑ったら、きっと可愛いんだろうなぁ。
笑って欲しい。
そんな彼女を、見てみたい。
「おい、ハルヒ」
「…何よ?」
よく分からない考えが、頭を支配してる最中、キョンの声で我に返る。
「何よじゃねぇよ。もうとっくに下校時間過ぎてんぞ。帰って良いか?」
「へ?じゃあ、今日は解散」
そう言うと、キョンはやれやれと言わんばかりに、肩を竦めて退場し、古泉君も追うように、
「お疲れ様です」
と言って、帰って行った。
みくるちゃんも、いそいそと着替えると、
「では、お先に」
と言って、頭を下げて出て行く。
そういえば、お茶を淹れてくれてたのに、考え事してて気が付かなかった。
…妄執だ、あんなの。
そう思うことにして、冷えたお茶をぐいっと飲み干し、
「…ふぅ」
一息吐いた。
「…」
この無言は、私のモノじゃない。
無言なのに、何故か凄く存在感を感じたのは、きっと知らぬ間に近付かれていたから。
「有希、どうしたの?」
恐る恐る振り返ると、何故か有希の顔は、私が立ち上がったら、ぶつかりそうなくらい、近くにあった。
有希は、私の顔に向かって、無言で手を伸ばす。
「な、に?」
「動かないで」
思わず身じろいでしまったが、静止されたので、黙って従った。否、思考が上手く働かなくて、抵抗出来なかっただけ。
有希の細い指が、私の頬に触れる。
何故だろう、心臓が、暴れ出した。
血液が顔に集中していくのも、嫌に実感出来る。
「有、希?」
私の頬をなぞる指は、程なく離れた。
「取れた」
「…へ?」
間抜けな声を上げながら、有希の指先を見れば、一本の睫毛。
多分、私のものだろう。
「凡そ27分前から、これは貴女の頬に付着していた。直ぐに報せることも可能だったが、自然に落下する可能性があったので、言わなかった。しかし、部活が終わった今、このままでは階段を降りる際の風圧により、これが原因で貴女の視覚が損傷を来す可能性があった為、除去した」
…えーっと。つまり、あのままだと、私の眼に入る危険があったから、取ってくれたってこと?
「そう。私がこれを除去したことで、貴女の危険は去った。それだけ」
「そっか。ありがと」
「いい。…じゃあ」
言って、有希はスタスタと去って行ってしまった。
有希がドアを閉めた直後、私は机にうつ伏した。
「ぅぁー…」
先程触れられた頬が熱い。心臓も未だうるさい。
あの行動は、有希にとっては、何でもない行動だったかもしれない。只、純粋に私を心配してくれてのことだと思う。
でも、私にとっては。
本当は、気付いてた。只、認めたくなかっただけで。
無意識に眼で追ってしまうのも、今心臓が暴れてるのも、頬が熱いのも。
私が、精神病にかかってしまったから。
有希のあの行動が、私にとって、重大な決定打になった。
今、はっきりと自覚した。
私は。
有希が好きなんだって。
きっと、出逢ったあの時から。
END
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あとがきのようなもの
自覚しちゃったハルヒ。
長門の行動は、ハルヒの観察上のもので、大した意味はありません。今のところは。
次からは、少しはカップリングっぽく書きたいと思います。