駄文

□忘失
1ページ/1ページ

「今回が15498回目に該当する」

古泉に呼び出された公園にて、長門の口から言い放たれた事実は、有り得ないものだった。
退屈そうに見えた?当たり前だ。
全くでなくとも、同じ様な無限ループを、15498回も繰り返し、只一人で覚え続けていたのだから。
しかも、その思い出と呼べるかも怪しい記憶を、誰とも共有出来ない。普通の人間なら、確実に気が可笑しくなる。
情報思念体に創られたインターフェースだって、辛くない筈はない。その証拠に、俺の見間違いでなければ、最近の長門の表情は、いつも物憂い気だった。

なぁ、長門。お前は、一体どんな気持ちで、今まで過ごしてたんだ。
そして俺は、どうしてもっと早く気付かなかった。
あんなに長門が辛そうだったのに。何度も見ていたのに。

「どうして黙ってたんだ?」

諸々な感情を堪えきれず、二人きりになれる機会を見計らって、長門に聞いた。

「私の役目は観測だから」

そして返って来たのは、素っ気ない言葉。
なんとなく、分かってた。そう返って来るんじゃないかって。
俺は、この質問も何度繰り返したのだろう。
何も出来ない不甲斐なさに、自分が嫌になりそうだ。
自分が何の力もない一般人であることは分かっている。
でも、出来れば話して欲しかった。頼って欲しかった。

「…成る程」

こんな言葉しか出せない自分の口さえも、もどかしい。

俺はこんなことを、約7000回も繰り返したのだろうか?
こんな風に、異変に気付きながらも、何も出来なかった前の自分を殴りたい等と、思い続けたのか?

「貴方には感謝している」

二人の間に、静寂が支配しつつあった頃、唐突に、長門が口を開いた。
…感謝?俺は今までずっとお前を助けられなかったんだぞ。

「貴方は、8769回目にこの異変に気付いて以降、毎回私に気を配ってくれていた」

ということは、それだけの回数何も出来なかったんだ。叱咤こそされても、感謝されることじゃない。

「それでも私は、」

「キョン、何サボってんの!?休んでないでアンタも打ちなさい!」

長門が何か言い終わる前に、ハルヒの怒声が響く。

「…やれやれ」

仕方なく腰を上げると、長門はさっきの言葉を既に言い終えていた。

「悪い、また後でな」

「いい」

上手く聞き取れなかったから、聞き間違いだったかもしれない。
それでも、長門は、

「嬉しかった」
そう言っていた気がした。
聞き間違いかもしれないが、この言葉すら、俺はまた忘れてしまうのだろうか?

「…また」

去り際、そう呟く長門に既視感。
また退屈にさせちまったと思ったが、長門はどことなく嬉しそうに見えたのは、気の所為ではないと思いたい。
出来れば、今の事は、覚えておきたいと思う。

再びバットを構えた瞬間。ふと、疑問が頭を過ぎる。

何で俺は、違和感に気付いた時、長門に声なんて掛けた?
何で、既視感を覚える程、長門に眼を向けていた?

俺は、もしかして。

いや、辞めとこう。例えそうだとしても、今の状況を抜け出せなければ、この感情も意味を成さないし、そんな資格など無いに等しい。

でももし、この無限ループを抜け出せたなら、いつかは。
この想いを長門に伝える日が、来るかもしれない。
俺が、この想いまで忘れてしまわなければ。


END















―――――――――――――
あとがきのようなもの

結局、忘れてしまって、告白出来ませんでしたなお話。
仮に、暴走前に、キョンが想いを伝えていれば、冬の事件は起こらなかった…かもしれませんね。
逆に混乱して、時期を早めてしまう可能性もありますが。

アニメのエンドレスエイトは、キョン長にしか見えませんでした。私には。

↑それで出来上がってしまった駄文。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ