駄文
□甘露
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「待っていて」
そう言って、長門は台所へ向かう。
本日は不思議探索のない、貴重な休日。
どうせなら、長門と何処かへ出掛けようと持ち掛けた所、いつぞやの約束を果たしてくれるらしく、家に来てとのことだったので、俺は此処にお邪魔してる訳だ。
なんというか、事ある毎に訪れているとはいえ、恋人関係になってから来ると感慨深いものがあるな。
因みに、楽しみで朝食抜いて来ちまったのは、内緒にしている。前回もそれを忠告されちまってるしな。
長門が台所に行ってしまってから、手持ち無沙汰になってしまった俺は、取り敢えず部屋に目を配る。
相変わらず、何もない。殺風景な部屋だ。
長門らしい部屋ではあるが、やっぱり何か備品的な物はあった方が良い気がする。
お節介かもしれないが、今度一緒にホームセンターにでも寄って…そうだな、先ずカーテンは必須だな。居ないとは思うが、何処からかこの部屋を覗き見ている輩がいたとしたら、気が気でないし。
等と下らないことを悶々と考えていると、
「出来た」
「うおっ!?早かったな」
目の前に二人分のホットケーキと紅茶入りのポットを乗せたお盆を手にした、長門がいた。
音も気配もなかったから、驚いた。いや、考え事してて気が付かなかっただけかもしれんが。
「…食べて」
差し出されたそれは、流石長門というか、いつぞやの喫茶店の物に、良く似ていた。まぁ、量的には、こっちのが多い気がするが。
ほんのりと甘い香りが、鼻を擽る。うん、予想より遥かに美味そうだ。
「んじゃ、いただきます」
「どうぞ」
備え付けてあったナイフで切り分け、フォークで口に運ぶ。
そして、咀嚼。
瞬間、言い様の無い感覚に襲われる。
「…」
この三点リーダーは、長門ではなく俺のものだ。
「…美味しい?」
長門よ、美味い処の問題じゃないぞ?
一瞬、意識が天上に行ってしまったじゃないか。決して、不味いんじゃない。
どう言って良いか分からんが、兎に角、
「…美味いよ」
そう、それしか言葉が見付からん。
なぁ、長門。これ、絶対ホットケーキミックスじゃないよな?
「そう」
自分で調合したのか?
「貴方は私が作ったホットケーキが食べたいと言った。だから、あらゆる情報を元に、材料を調合し、最も美味しいと思われる方法で焼いてみた」
なんとまあ。
お前が作った物であれば、俺はどんな物でも喜んで食すつもりだったのだが。まさか、其処まで考えてくれるとは。
「…迷惑だった?」
「そんな訳がないだろう?」
寧ろ、有り難いね。
此処まで想われてるなんて、とんだ果報者だな、俺は。
照れ隠しの為、俺は少し大きめに切り分けて、口に押し込んだ。
咀嚼中、長門の琥珀色の瞳が、ずっと此方を見ていた。
「…どうした?」
飲み込んで、尋ねる。
「朝食、食べてない」
ん?
お前がか?
「貴方」
…何でバレてる?
「顔色。心音の速度。瞳孔の…」
…分かった。もういい。
長門に隠し事は出来ないな。
「支障を来すと言った筈」
あぁ、言ってたな。決してその忠告を無下にしたつもりは無いんだが。
どうやら怒っているらしいので、ここは素直に謝っておこう。
「すまん。楽しみ過ぎて喉を通らなかったんだ」
だからといって、お前に責任を擦り付けるつもりは毛頭ないからな?
俺が悪かった。許してくれ。
「…いい。只、貴方の健康に支障を来すから。今度から気を付けて」
「ありがとよ」
俺って本当、もの凄い想われてるな。
「なぁ、長門」
「何?」
「食べ終わったら、一緒に出掛けるか?」
この極上ホットケーキのお礼にも満たないが、行きたい所があれば、俺の自転車で連れてってやる。何処へだってと言いたいとこだが、お前と共に過ごす時間も欲しいから、許容範囲内で頼む。
「…図書館」
OK。
食い終わったら、直ぐに行こう。
「食後の運動は推奨しない。予定を変更したい。許可を」
…まぁ、良いけど。
どうしたいんだ?
「私という個体は、この空間で貴方と過ごすことを望んでいる」
そんなんで良いのか?
「良い」
じゃあ、仕方ないな。
まぁ、正直な話。俺はお前と一緒なら、何処だって良いんだがな。
「…そう」
照れてるらしく、目を反らして呟く長門は、もの凄く可愛かった。
なんとも言えない、甘い空気が、辺りを漂う。
そんな空気に堪えられなくなり、食べることに集中することにして、再びホットケーキを口に放り込む。
この雰囲気に呑まれてか、噛み締めたそれは、今まで食べたどのホットケーキよりも、甘露なものだった。
END
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あとがきのようなもの
仕上げてみたものの、微妙なものになってしまいました。ごめんなさい(T^T)
この後二人は、更に甘々な時を過ごせば良いと思いm(強制終了)