駄文

□素直
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あの日、彼からの告白を受け、私達の関係は恋人関係へと移行した。
それは、私にとって、人間的な感情で表すなら、嬉しいと言えること。

だが、彼と涼宮ハルヒとの関係は、規定事項であった筈。
そのことを考えると、いまいち納得がいかない。

「よぉ、今日はまだ長門一人か」

放課後。いつもの窓際で、本を捲る手を休めてそんなことを考えていると、彼が現れた。
私の姿を確認して、軽く挨拶をすると、私の所から団長席の次に近い席に腰を降ろす。

「…」

「どうした?俺の顔に何か付いてるか?」

私の視線に気付いてか、彼は私の方を向いて優しく微笑む。

「貴方は、少なからず涼宮ハルヒに好意を抱いていた筈」

私がそう言うと、彼は一瞬驚いた様子だったが、直ぐに何か考えを廻らせ、応える。

「つまり、お前はまだ俺の告白を信じきれてない訳か?」

「…上手く言語化出来ないが、その見解で相違ない」

その言葉に、彼は再び何か考える仕草をとる。

「お前が気にしてるのは、俺がハルヒをどう思っているか。そういうことだな?」

「…そう」

「まぁ、好きか嫌いかで言い表すなら、前者だが」


やはり。
理解はしていたが、何故だろう。胸が苦しい。

「だが、良くも悪くも、あいつは俺にとっては悪友だ」

「…悪友?」

「あぁ、付き合うと為にならない意味も含むが、親友っていうのか?そんな感じだと思ってる」

その言葉を聞いて、先程までの胸の苦しみが消えた。
あれは何だったのだろう。

「…理解した」

だが彼の言っていることは納得出来た。気がする。
少なくとも、彼が涼宮ハルヒに向けていたものが恋愛感情ではなかったことは。

「そうかい。因みに、お前も前者に該当する…いや、ちょっと違うか」

「?」

違う?
彼は私が、好きでは、ない?

「嫌いって意味じゃないからな。断じて」

何か表情に出ていたのか、彼は慌てて訂正を入れた。
嫌いじゃないのなら。

「何?」

「そうだな。言葉で言い表すなら、…愛してる」

「っ」

その言葉を理解した瞬間、瞳から何かが零れ落ちた。

「…長門?」

彼の指が、瞳から零れ落ちた何かを拭う。
そして、優しく頭を撫でる。

「どうした?」

「分からない。だが、感情で言い表すなら'嬉しい'に該当する筈」


では、私の瞳からは、何が零れ落ちた?
'涙'と呼ばれるものは、こんな時にも流れるものなのだろうか?それとも、私の体に何かエラーでも生じたのか。

「あー…つまりは、嬉涙ってやつか」

「それは?」

「人間ってのはな。もの凄く嬉しい時とかにも、涙を流すもんなんだ。…俺の自惚れでなければ、お前の場合さっきの俺の言葉が当たる訳だが」

そう。
この滴のようなものが、零れ落ちたのは、その言葉を聞いた瞬間だった。

「では、これはエラーではないもの?」

「まぁ、そういうことだ。じゃあ、さっきのは自惚れじゃないって思って良いんだな?」

勿論。

「いい」

言いながら頷くと、彼は嬉しそうに笑って。

「そうかい」

私を抱き寄せる。
数秒、彼の温もりを、心地好さを堪能した頃、彼が口を開く。

「それと、さっきの話の続きなんだがな。俺は、ハルヒのことと関係なく、自分の感情に素直になっただけだぞ」

「…素直?」

「あぁ。自分がどう思ってるのか、感じているのか。そのままお前に伝えただけなんだ。長門。お前はどうだ?」

「…私も、」

好きか嫌いでなく、彼が言ってくれたように。私も彼を想っている。
これが、今の私の素直な気持ち。

「貴方を愛している」

言い終わるか否かの瞬間、唇が重なった。
その直前に見えたのは、これ以上ないくらいの、彼の嬉しそうな笑顔。



END

































―――――――――――――
あとがきのようなもの

二人が付き合うに至るには、ハルヒの問題が多少残るかなぁと思って書いたもの。

そろそろ、ハルヒにバレる話も書かなきゃかな(^^;
多分、次の拍手辺りにそれを書くかもしれません。

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