□それは、冬の足音と共に動き出した
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冬の足音が、聴こえ始めた頃。
それはそんな時に、動き出した。


部室に向かう前、机の中身を整理していると。見覚えのない封筒が、カサリと音を発てた。

「…?」

宛先には私の名。
差出人には知らない人の名前。
可愛らしい封筒には、ご丁寧にハートのシールが留めてある。

なんとなく、教室で見るのは恥ずかしかったので、部室で読むことにして、そそくさとポケットにしまい、そのまま荷物を持って、部室へ向かった。

「こんにちは〜」

「あ〜ずにゃ〜ん」

誰も居ない事を期待して扉を開けた先には、既に居たらしい唯先輩が。そして、いつもの如く此方に突撃して来た。

「他の皆さんは?」

「ん〜、少し遅くなるって〜」

私の問いに、抱き付いたまま、しかも頬を擦り寄せながら、先輩は言う。普段は多少抵抗するとこだけど、あったかいからまぁ、今日は放置ということで。

と、荷物を置きながら、手紙の事を思い出す。律先輩とかだったら、めちゃくちゃからかわれそうだけど、唯先輩なら大丈夫かな?
そう思いながら、もらっていた手紙をポケットから取り出す。

「ん?何それ?」

「帰りに、机の中に入ってたんです。ここで確認しようかと」


なるべく唯先輩には見せないように、手紙の中身を確認。
えっと、なになに。

其処に書かれていたのは、好意を示す文体と。待ち合わせ場所。
放課後、校舎裏?

…えっ?

冬が始まったばかりとはいえ、わざわざ風が冷たい外に!?

「うにゃあ!?」

「あ、あずにゃん!?」

動揺の余り、変な声が出てしまった。と、兎に角急いで待ち合わせ場所に!?

「待ってあずにゃん。何処行くの!?」

「何処って、この手紙の待ち合わせ場所ですよ。早く行かないとこの人凍えちゃいます」

未だに抱き付いていた先輩を剥がしながら、私は答える。

「え…?あ、そっか。へ、返事はどうするの?」

ヤケに途切れの悪い感じに、先輩は言う。表情も、何故か曇ってるような…?
ってそれより!?

「お話聞いてからお返事はしますっ。じゃ、行って来ますね」

そして、私が部室から駆け出した後、先輩の顔が更に曇ってたことなんて、私は知る由もない。





――――――――――




「はぁ。やれやれ」

校舎裏に居た差出人さんは、やはりというか、少し凍えていた。あまり記憶にない人だったけど、同学年の可愛らしい人だった。
話を聞けば、文化祭ライブを見てくれた人らしく、私なんかに一目惚れしてくれて、お友達になろうとのことで話は決着。
正直、あまり重い話じゃなくてホッとしてる。

「戻りました〜」

なんだかほんのり疲れたので、一息吐きたい気分。

「あ、あずにゃん」

扉を開けると、落ち着きのない様子な唯先輩が歩み寄ってきた。

「ど、どうだったの?」

「へ?あぁ、ちゃんと話して来ましたよ。お友達になりたいという話だったので、そういうことになりました」

「…そっか」

どうしたんだろう。今日の先輩は。最初は元気だったのに、なんだか様子が…。

「どうしたんです?変ですよ」

何も考えずに思わず放ったこの一言が、地雷だったのかもしれない。

「ねぇ、あずにゃん」

妙に暗い声。普段無駄に明るい先輩がこれじゃ、調子が狂いそう。

「…一体どうしたっていうんd」

振り向いた途端、言葉が紡げなくなる。
唇を、塞がれた!?

「…っ」

長いような、短いような時間。私の唇は塞がれていた。
唯先輩の唇によって。
意味が分からず顔を上げると。

「…っ、ごめん。あずにゃん」

涙を流した唯先輩がいて。私が呆けている内に、自分の荷物を抱えると、猛ダッシュで走り去って行ってしまった。

「…え?」

取り残された私は、本当に訳が分からず、そのまま暫く呆けていた。
他の先輩がやってくるまで。

その間、様々な疑問が頭を巡っていた。
普段冗談で言っていた行為を、何故に今更本気で?
何故に行為に及んだ先輩が涙を?
そして、その行為に対して、私はどう思った?

…あぁ、もう。
訳が分からない。
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