□その日見上げた月は、綺麗でした
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部活―と呼べるか不安なくらいゆったりした時間―が終わり、皆さんが帰宅した後、唯先輩が私に抱き付いたまま離れないのが、最近日課になりつつある。
そして、唯先輩が落ち着くまで、帰れない。

皆さんがいる時は、普段通りだったのに、今はなんだかいつもと違ってて。

「あずにゃん、あずにゃん」

こうして、何度も名前を呼びながら。
まるで、手放したくないものを抱き締めているような。でも、強く抱き締めて壊したくないっていうのも分かるような。

「振り向かせてみて下さい」

あの言葉は、どうやら先輩に微妙な不安を残してしまったようで。
私が離れていかないか、本当に振り向かせられるのか、不安って感じが伝わってくる。

そういえば。
あんな風に返事はしたけど。考えてみたら、私は唯先輩の何処を好きになったんだろう。


練習はしないし。
いつもだらけてるし。
ふざけてばかりだし。
部室に来て見れば寝てるし。


あれ?
好きになる要素は?


えーっと。良いとこを考えよう。
先ず、そう。
ギター引くのが上手、それに憧れて私は此処にいるんだし。
それからたまに、真剣な時だけ格好良かったりする。たまにだけど。
あとは、笑顔とか。唯先輩の笑顔は、あったかい。こっちまで笑顔になっちゃいそうなくらい。

・・・・・。

あれ?
逆にベタ惚れじゃない?

でも、唯先輩は、それを知らない。
既に振り向かせる必要など、ないことを。

って言っても、今更言葉にするのは恥ずかしいから。

「唯先輩」

ビクリと、先輩の肩が揺れた。
ふっと、顔を上げた瞬間に、私は頬に口付けを贈る。

「えっ…?」

力が抜けた瞬間に、私はするりと抱擁から脱出する。

「ほら、暗くなる前に帰りますよ」

そして、何でもないような顔をして、先輩に手を差し伸ばす。

「あっ…うん」

頬に手を添え、呆然としていた先輩は、若干戸惑いながら、私の手を取った。

「さっ、帰りましょう」

下校中、会話はなかったけど、不快じゃない沈黙で。
互いに想いの合ってるのは、繋がってる手が物語ってる。ふいに、沈黙のまま、指が絡んだ。これも、ちっとも不快なんかじゃなくて。
逆に、分かれ道で解けるのが、寂しいと感じた。
先輩がまた明日を言ってる時、言葉じゃ恥ずかしいなんて思ってあんな行動に出てしまったけど、さっきので良かったのかな?なんて思ってると。

「お返し」


そう言って、額に贈られたキスは、暖かで優しくて。
その時の先輩の幸せそうな笑顔が、全てを物語っていた。

「もう、大丈夫だよ」

って。
別れ際、先輩は私の耳元で。

「おやすみ、あずにゃん。大好きだよ」

そう呟いて、軽やかな足取りで去って行った。

なんというか、つまりはこれで、恋人関係?的なものが成立しちゃいまして。

明日から、どうなるんだろうと。
ちょっと不安になり、見上げた冬の夜の月は、不思議なくらい綺麗だった。



END





















―――――――――
あとがき

やっちゃいました。続編。
そして、成立しちゃった関係。これからどうなるかしら☆
季節感とか関係無しに、順を追って連載的にこっそりちまちまやってけたらな。なんて考えてます。

ので、多分続きます。

後悔などしていない←

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