駄文
□微熱
2ページ/3ページ
あれから、ろくに会話もせず、雨音と二人の足音だけが響いていた。決して、不快な訳ではなく、寧ろ心地好かった。
只、私の心音はひたすら煩かったけど。
でも、そんな時間は長くも続かず、別れ道へと辿り着く。
その頃には、雨も大分弱まっていて、走って帰っても問題無さそうだった。何より、体が火照ってしまっているから、冷ますにはこれくらいの雨は丁度良い。
「これ、貸すから」
なんて考えてたのも束の間。
それを口にするより先に、有希は傘を差し出していた。
「い、良いわよ。私は走って帰るから」
火照った体を冷ましたいのもあるけど、有希が濡れてしまうのは、更に避けたい。
「貴女の家より私の住むマンションの方が近い」
貸してくれる理由は、それらしい。
有希らしいと言えば、らしいんだけど。
「良いから、貴女は風邪ひかないように、しっかり傘を差して帰りなさい。団長命令よ」
その言葉に、有希は渋々了承したようだ。
しかし我ながら、良く分からない職権乱用だ。普通なら逆だろうに。
「此処まで入れてくれてありがと」
傘から抜け出すと、程好い冷たさの雫が降り掛かる。
「…気を付けて」
「へ?」
気を付けてって、何に?
一応、雨の中で怪我するようなドジじゃないつもりだけど。
「風邪、ひくから」
あぁ、そういうこと。
「大丈夫よ。じゃあ、また明日学校でね」
言うが早いか、私は雨の中を走り出す。
火照った体に、降り注ぐ雨は、やはりというか、少し気持ち良かった。