伝勇伝

□散るだけの華
1ページ/3ページ

 
「花火ってさ」
「ん?」

 花火の上がる瞬間に唐突に話し掛けられて思わず聞き返す。視界には草の生い茂る河原で空を仰いだまま立ち、表情の読めない銀色の王様…又の名をいじめっ子帝王、シオン。

「いつ見ても綺麗だよね」
「何いきなり、キモいんだけど」
「ははっ、まぁライナが言うより全然キモくないんじゃない?」
「…はいはい、そーかもね」

 呆れて適当に返事をすると、彼はその返事にも軽く笑った。笑い声は無かったが肩を震わせたまま空を見る姿が何だか無性に腹立たしく、適当に三つ編みに束ねてあった目の前の銀髪をクイッと引っ張ってやった。

「っうわ…!」
「…って、ぉわっ!」

 髪を引っ張られた頭は既に上を向いていたのでそれ以上後ろに反れる事は無く、かと言って腰から後ろに曲がると必然的にバランスを崩す訳で。
 シオンが後ろに倒れ込んだ。ついでにライナも巻き込まれ、2人で茂みに仰向けに寝転がる。
 丁度自分の上に仰向けに乗っかるような形になったシオンに、わざわざ退かす気分にもなれず、仕方無しにライナはシオンが自分から退いてくれるのを待った。
 のだが、一向に起き上がろうとしない。
 
 
「あのさ、重いんだけど」
「そう?ダイエットしようか?」
「邪魔だって言ってんの。てゆかお前働き過ぎで体重減って変に軽いから」
「…筋肉落ちただけだって」
「嘘吐け、肉食え肉付けろ」
「まだ一杯付いてます」
「だから嘘付くなって」

 言いながらシオンを抱きかかえるように腕を回すと、贅肉どころか必要最低限の筋肉すら全く付いていなくて。
 回した腕の中の細さに驚いて、そのまま手を止めてしまう。
 近くで、花火が控えめながらも派手な音を立てて弾ける。

「…ホントに餓死しそうだな」
「だからちゃんと食べてますって」

 苦笑が花火に照り返る。
 口元に浮かんだ笑みと少し下がった眉を見、コイツ本当にこういう表情は似合わないな…なんてライナは考える。
 いつでも余裕綽々に笑っていて欲しい(勿論そんな顔で虐められるのは嫌だが)…でもそれが出来ない時は、上手くない苦笑なんてせずに弱い部分を晒して欲しい。
 せめて、自分にだけでも良いから。
 って、なんか俺キモいな。まるでシオンが一番大切みたいな感――
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ